『菊水ふなぐち』は菊水酒造を代表する日本酒です。缶入り日本酒の中では、POSデータ(2022年8月 酒販ニュース9月21日掲載)によると、清酒の小容量カテゴリーにおいて日本一の販売数量を誇ります。
『菊水ふなぐち』はご存じの通り生酒です。生酒を常温で流通させることは品質安定の難しさ、劣化の面で問題があり、菊水ではかつては蔵に来て頂いた方だけに振舞っていました。一方、生酒ゆえにその旨さは格別で、評判を聞きつけた人が蔵までやってきて所望する時代もあったそうです。そこで、菊水では、日本酒の鮮度を保つための製品開発、容器開発で試行錯誤を繰り返し、50年前の1972年に、日本初のアルミ缶入り生原酒の開発に成功。蔵でしか飲めなかった『菊水ふなぐち』を数多くの全国の方々に愉しんで頂けるようになりました。このように、菊水では、創業以来の進取の気性の精神により、商品開発、容器開発、品質管理など研究開発活動にも以前から熱心に取り組んでまいりました。
菊水の研究開発活動は多方面に渡り、新しい研究開発手法や食品、飲料、酒類技術評価方法、マーケティング調査手法、フードテック関連情報など広く最新情報の収集のためアンテナを張り、市場トレンドやマーケット情報を収集しています。
その取組みの中、現在では、日々の生産ロットの品質管理、鮮度管理、経時変化検証の他、ガスクロマトグラフィ検査によるにおいの質検査、液クロマトグラフィによる呈味検査、味覚センサなど感性工学機器を用いた味覚データ取得による商品管理、商品特長の定量化などまで行っています。
菊水製品の商品ラベルに掲載されている味わいチャートも味覚センサで測定した客観的なデータを示すことにより実際に飲用する前に商品の味わいをお客様に伝えるための取組みの一環になります。【図1】
これ以外に、菊水で現在注力しているのが、フードペアリング評価方法の開発になります。従来、フードペアリング或いはマリアージュについては、評価者のテイスティングなど人間の主観や感覚で捉える方法が世の中では主流でしたが、味覚センサなど感性工学技術の進展により実際に科学分析した結果から食べ物と飲料、酒類との相性を評価する技術が世の中に登場し、菊水でも、業界内ではかなり早い段階からその研究開発活動を推進してきました。これまでの菊水通信のバックナンバーの中にもフードペアリングについて事例を数多くご紹介させて頂いています。
料理品と日本酒の合わせ方としては、いつものように、【図2】で示す通り、料理品と日本酒がそれぞれに持つコク、キレ、濃醇の三角形のグラフから、その形状に着目し、味わいが調和する「調和型」、味わいが深まる「相乗効果型」、味わいを引き立たせる「補強型」、味わいがまとまる「相互補完型」という組合せを探し出し、マリアージュのパターンを見つけ出します。
料理や飲料、酒類などの苦味や渋味は低濃度であるため味わいに輪郭を与えるコクとして解釈し、キレは酸味の強さや口腔内での味わいの後切れとして解釈、濃醇は塩味や味の濃淡として解釈します。苦味や酸味は、人が本来避け、食生活の中で後天的に受け容れる味わいであるため、これらのバランスが重要であると考え、それらが適量となることで味わいに輪郭が加わり、ペアリングやマッチングの可能性が高くなります。
例外として、料理が飲料や酒類を大きく越える苦味(或いは渋味)の場合はマッチングしにくい場合がありますので、菊水では官能評価も併用しています。
味わいの濃醇である塩味などは味わいの濃度の決め手となります。甘味やうま味に関しては双方の濃度に関係なく、「好み」として判断することが多いため、一次スクリーニング判定では使用せず、二次スクリーニングでの官能評価時に判定根拠として考慮する方法を採用しています。
菊水と長年共同研究している味香り戦略研究所のフードペアリングシステムに格納されている約200の食品群の中から、『菊水ふなぐち』に合うペアリング料理を抽出したのが、以下の表になります。意外な組合せもあることに驚かされます。
日本酒醸造・発酵食品製造のモノ造り、日本酒の歴史、文化、愉しみ方等を様々にお伝えするコト造り。菊水はこの両輪で日本酒を楽しくする蔵元です。モノとコト両方面から俯瞰して覗いてみた時、お酒の新たな魅力が発見できることから、菊水では引き続き、研究開発活動を深化、強化して行く予定です。『菊水ふなぐち』と料理の組合せで、これは! というお奨めのとっておきの組合せがあれば、是非菊水までご一報ください。
■デジタルブック「菊水通信」