北越後だより

発売50周年 改めまして『菊水ふなぐち』です!

名実ともに菊水酒造の看板商品である“ふなぐち菊水一番しぼり” (旧名称 名称については後述)が発売50周年を迎えました。
ひとえに飲み支えてくださったご愛飲者の皆様あってこその50周年です。心より御礼申し上げます。

“ふなぐち菊水一番しぼり”といえば、この缶(図1:前デザイン)。

図1 ふなぐち菊水一番しぼり 前デザイン

全体が金色で、酒樽を模して、白抜きの窓に大きく赤い「菊水」の文字。表現や味わいチャート図、アルコール度数を大きく表示するなど、細かな改良は随時行ってきましたが、全体のデザインを大きく変更することはなく、ずっと長い間、私達社員にとってもこの金色の缶が“ふなぐち菊水一番しぼり”であり続けていました。

今年の発売50周年を迎えるにあたり、私たちはこの商品を改めて〈真っすぐに皆様にお伝えしたい〉と考えました。長い間ご愛飲くださった皆様に感謝の気持ちをお伝えすると同時に、「この味ですよね」とこの酒の美味しさを改めて共有するために。そしてこれからこの商品に出会ってくださるであろう皆様に、「こういう酒です。こんな味わいです。ぜひ試してみてください」とご紹介するためにです。

■まっすぐ伝わる商品名に。『菊水ふなぐち』

50年前まだ常識の外であったしぼりたての生原酒を、なんとかしてお伝えしたい一心で“ふなぐち菊水一番しぼり”と命名しました。菊水が苦労のすえに開発した画期的な製法が全て込められた商品名です。50年の月日が流れ、加熱殺菌をしない、加水調整をしない、という製法はある程度認知が広まって来たと感じる中で、やはりこの商品を一言で的確に示しているキーワードは*【ふなぐち】だと私達は考えます。

図2:ふねの口からお酒が注ぎ出る様子(二王子蔵)

日本酒の製造工程で、仕込んだ醪(もろみ)をしぼる道具を蔵では「ふね」と呼び、その「ふね」の「くち」から流れ出てくるしぼりたての生原酒を、菊水では【ふなぐち】と呼んでいました。菊水の蔵で今しぼったばかりの生まれたて、火入れ(加熱処理)もしない、調合もしない、酒本来の味わいのままの生原酒を表現するのに、【ふなぐち】以上に適した言葉は無いと考え、商品名に採用しました。菊水のこだわりを全て詰め込んだ“ふなぐち菊水一番しぼり”は、慣れ親しんだ良い名前とは今でも思ってはおりますが、少々長い感も否めません。50周年を好機に、思いきって簡潔で且つ特徴を真っすぐに伝える力のある名称に改めようと決めました。新しい名称は『菊水ふなぐち』です。改めまして宜しくお願いします。

 

■まっすぐ伝わるデザインに。缶デザインをリニューアル

“ふなぐち菊水一番しぼり”という長い名称の時より、50年間ずっと社内では【ふなぐち】という愛称で呼ばれています。一方でお客様からは“菊水”と呼ばれることが多いように感じています。他にも“一番しぼり”や“金の菊水”なんて呼ばれる方もいらっしゃいます。前述のとおり【ふなぐち】という名称こそがこの酒を端的に表していると考えておりますし、社内でも愛着のある呼称ですので、皆様にも【ふなぐち】と呼んでいただけたらな、と思うのです。そのためにはどうしたら良いのか……。発売当時より缶の中央に大きく“菊水”と書かれており、このことがこの商品自体を“菊水”や“金の菊水”と呼ばせている一因かもしれません。今あらためて【ふなぐち】というこの商品の最大の特徴を名称として、飲んでくださる皆様も、造る我々も、共通して【ふなぐち】と呼びたいという願いを込め、缶のデザインも変えよう!新デザインの缶には真ん中に一番大きく【ふなぐち】と記そう!と決めました。

2022年10月からの新しい缶

缶全体のイメージを大きく左右する色合いも見直しました。今までのデザインは“金の菊水”と呼ばれるほどに、金色を全面に配したデザインでした。光を放つような金色はとてもインパクトがあり、小さい缶容器ながら存在感を示してくれるものでありましたが、この商品の味わいをまっすぐに伝えているかという視点から見直してみることにしました。しぼりたて生酒ならではのフレッシュでフルーティな香り、キリリと冷やした時の爽やかな飲み心地、原酒ならではのインパクトのあるコク、且つキレの良い後味。全面の金色ではこのフレッシュな香味を表現できていないのではないか?しかし、ガラリと変えることでいつものご愛飲者様を売り場で戸惑わせてしまいたくない、様々に議論は白熱しました。

結果、デザイナーさんは絶妙な匙加減で金色に白色を加えてくれました。今までの“ふなぐち菊水一番しぼり”の雰囲気を纏いつつ、とてもすっきりしたイメージになりました!この商品のフレッシュさ、爽やかさ、キレの良さが感じられる洗練された配色です。簡潔な商品名『菊水ふなぐち』にもとても相応しいデザインと感じます。

実は、発売当初の缶は全体が白色でゴールドは窓枠を彩るアクセント的に用いられているのみでした。

(図2:1972年発売当時の缶)そして、最初にこの美味しさのファンになってくれたのは、新潟のスキーリゾートに遊びに来ていた都会の若い方々でした。従前の日本酒とはひと味違う新鮮な香味を好んでくださったのでしょう。当時の社内資料がなく全くの想像でしかないのですが、落ち着いた色合いの多い日本酒のデザインの中で、この爽やかで軽やかなイメージの白色は、従来の日本酒のイメージに飽き足らない若い感性に向けての情報発信だったとも考えられます。

白色にゴールドのアクセントを入れた缶容器で発売以来、5年後さらに11年後とデザインリニューアルするたびに金色の割合が増え、1986年には金色がほぼ全面となった経緯があります(図3:缶デザイン変遷)。こちらも想像の域を超えませんが、原酒ならではのコク、ガツンとインパクトある味わいを表現したのでしょうか、それとも一升や四合など堂々とした背の高い瓶の中で、小さな缶容器を精いっぱい目立たせたい思いが、光り放つ金色を多くさせていったのでしょうか。デザインの変遷に当時の社員がこの商品に誇りと愛着を持ち、多くの方々に手に取って欲しいと願った想いが見て取れる様です。

 

商品の特徴と味わいをまっすぐに伝える原点回帰の意味合いも感じさせるデザインリニューアルではありますが、単なるノスタルジック的表現ではありません。新しいデザインの缶に触れてみてください。手触り感が少し違う事にお気づきになるでしょう。白色の部分に特殊インクを使っており、ツルンとした缶では味わえない、ちょっと上質な手触りを感じていただけます。

さて。生原酒といった大きな特徴に比べ、お伝えする機会が少ないのですが『菊水ふなぐち』は国の定めた規定に則り厳選した原料で特別な製法を行う「特定名称酒」です。日本酒は「普通酒」と「特定名称酒」に分けられます。日本の酒税法に定められた製造法と名称に関するルールがあり、一定の条件を満たした日本酒でなければ特別な名である〈特定名称〉を冠することは許されていないのです。この条件は中々に厳格です。原料米は農産物検査法により3等以上に格付けされた玄米(もしくはそれと同等の玄米)であること、麹米の使用割合が15%以上であること、出来上がった酒は固有の香味を持ち色沢が良好であること。これらの基本条件をクリアしたうえで、原料米をどのくらい削っているか、醸造アルコールの使用有無(醸造アルコール使用するタイプは、アルコール分95度換算の重量が白米の重量の10%を超えない)などにより、8種類ある特定名称のうち適したものを名乗ることが出来るのです。吟醸酒、純米酒などの名称を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。これらの総称が特定名称であり、『菊水ふなぐち』はこの中で本醸造酒を名乗ることが許された、特定名称酒なのです。日本酒造組合の調べによりますと、日本酒の国内出荷量に占める特定名称酒の割合はわずか34%(令和3年)であり、これ以外は普通酒・一般酒となります。

大前提として特定の名を冠することのできる基準の造りをした酒であり、そこに加えて、加熱処理を行わずとも劣化しづらい技術を以てのフレッシュさ、加水調整しない日本酒本来のコクなど、この小さな缶の手軽なイメージからはちょっと想像し難いほどの品質を詰め込んでいると自負しています。新しい缶の手触りから、「しっかりした品質の美味い酒を多くの方々へお届けしたい」菊水の心意気を感じていただければ嬉しく思います。

 

■語りつくせない想いも整えて記しました。

このように語りつくせない『菊水ふなぐち』の魅力。ぜひ知っていただきたい諸々を、新しい缶に記しています。今まで情報の追加を重ねることで様々なフォントが混じっていた文字情報も、読みやすく整えました。ぜひ手に取って、読んで、味わってください。いつもご愛飲くださっている方々には「なるほどこの美味しさの理由はこれか」と思っていただきたく、はじめましての方にはこの味わいをまっすぐにお伝えすることで手に取っていただけるように、思いを込めて50周年を機に色んな改良を行いました。

50年目の改めまして。『菊水ふなぐち』です。これからもどうぞご贔屓にお願い致します。

 

*【ふなぐち】は菊水の登録商標です。

◆WEBマガジン「菊水通信」

https://www.kikusui-sake.com/book/vol21/#target/page_no=7