菊水通信

熱燗だけが燗酒じゃない。上手に燗をつけて風流を楽しもう

日本酒は、幅広い温度帯で飲まれる、世界でも珍しい酒だ。冷え冷えの5℃あたりから熱々の60℃近くまで、いろんな味わいを楽しむことができる。日ごとに秋が深まり、朝晩がちょっと肌寒く感じられるようになると、やはり温かい酒が恋しい。年中冷やした酒を飲む人が増えているが、昔は、旧暦九月九日(新暦10月25日)の重陽の節句を過ぎると、酒は温めて飲むものとされていたようだ。

 

日本酒を温めることを「燗をつける」あるいは「お燗する」という。温められた日本酒は『燗酒』だ。とあるチェーン店の居酒屋で、ドリンクメニューに

 

日本酒 冷または燗

 

とあったので「燗」を頼んだ。するとアルバイトらしき女の子に「熱燗ですね」といわれ、あまり熱いのは好きじゃないが、この店ではそうなのかと諦めた。

 

温めた酒=熱燗と思ってる人も多いようだが、そうではない。燗の温度によってそれぞれ美しい表現があり、もちろん香味の感じ方も違ってくる。

一般的に燗酒に向くのは純米酒や本醸造酒で、冷酒に向くのは香りが華やかな吟醸酒や大吟醸酒といわれている。ただしすべての銘柄に共通するのではなく、ぬるめの燗にしておいしい吟醸酒や少し冷やして飲みたい純米酒もある。燗をつけてよりおいしくなったら、それは「燗上がりする酒」。菊水の純米酒なんかがそれだ。ひとつの酒をいろんな温度で飲んでみるのも楽しいだろう。

 

さて、温度帯による燗酒の表現を知ったはいいが、実際に店で「日向燗」「人肌燗」などと通ぶるのはちょっと恥ずかしい。上燗は「適燗」ともいうので、それを中心に”熱め”がいいか”ぬるめ”がいいかといったところか。

居酒屋チェーン店などでは、一升瓶を逆さに設置してボタンを押すだけで下から燗酒が出てくるような酒燗マシンが使われているのだが、そのような機械でも3つ程度の温度設定ができるようだ。

 

しかし、由緒正しき燗酒の作り方は、なんといっても湯煎である。店の厨房の片隅に置いた『どうこ』と呼ばれる四角い酒燗器を使う。木製の箱で、内側はステンレスになっていて、電気で湯が沸かせる。もちろん温度調節も可能だ。

 

秋の、やけに冷える夕べ。ガラガラっと引き戸を開け、カウンターに座るや「1本つけて」と声を掛ける。店主は一升瓶を手に取ると、金属製の『ちろり』という取手つきの器に1合注ぎ入れ、それを『どうこ』の湯に浸ける。そして頃合いを見て引き上げ、温まった酒を徳利に移し換えて出してくれるのだ。

ぬるめ熱めの好みを伝えてもいい。日本酒にこだわりの強い店ならば、主人や女将のオススメの温度で供されるかもしれない。

 

かつて料亭などには、『お燗番』と呼ばれる酒燗のプロがいたそう。客の好みや酒の特徴、料理などに合わせて、最適な温度を見極めて提供したのだ。

そういえば、近ごろあまり見なくなったが、徳利型の一合瓶があったのをご存じだろうか? 栓が王冠で、酒の液面と王冠の裾に8ミリほどの隙間があった。燗をつけると熱膨張で液面が上昇するのが見えて、隙間が半分になったら『ぬる燗』、なくなったら『熱燗』というふうにバイトの先輩に教わったな…。

家庭で湯煎する場合は、①徳利に九分目まで酒を入れ、注ぎ口にラップをする。②鍋などに徳利の半分まで浸かる水を張って火にかけ、沸騰したら火を止める。③火を止めた鍋に徳利を浸し、酒が徳利の口まで上がってきたらできあがり。湯の量や徳利の素材・厚さなどにより熱の伝導は異なるが、あまり時間をかけるとアルコールが飛んでしまうので、2〜3分で燗するのがコツ。

 

電子レンジでもできないことはないが、徳利の上部と下部で温度のムラが出やすい。出力500Wの場合、1合(180ml)あたり約60秒で熱燗になるので、30秒くらいで一度取り出して徳利を揺すって酒の温度を均一にしてから再度レンジに入れるといい。

 

 

しかし、どうよ。「チン!」とできあがる燗酒と、湯の中から引き上げた徳利の底を布巾で丁寧にぬぐいながら差し出される燗酒。たとえ同じ上燗であっても、やはり呑むほうの気分は違ってくるだろう。美人の女将ならもちろん、朴訥な健さんであっても、人の手で燗をつけてもらうと心まであったまってしまうのだ。

 

もっと詳しくは、ブック型『菊水通信』へ
https://www.kikusui-sake.com/book/vol5/#target/page_no=3

 

<参考文献・参考サイト>
酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所
日本酒の科学 著/和田美代子 監修/高橋俊成 発行/講談社
新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者