7月25日は『かき氷の日』。かき氷は夏氷(なつごおり)とも言い、7(な)2(つ)5(ご)の語呂合わせから制定された。また当時の日本最高気温40.8℃が、山形市で1933年7月25日に観測されたものだったこともその理由。ちなみに現在の日本最高気温は2018年7月23日に熊谷市で観測された41.1℃だ。
暑い季節になると冷たい飲み物が恋しくなる。酒も冷蔵庫でキンキンに冷やしたいものだが、四合瓶ならまだしも一升瓶では家庭用冷蔵庫に入らない。となれば、氷を浮かべてはどうだろう。日本酒に氷だなんてイマドキだね、と思われるかもしれないが、いやいやそんなことはないぞ。じつは奈良・平安の頃より、やんごとなき方々は酒に氷を浮かべて飲んでらっしゃったのである。
冷凍庫や製氷機のない時代、夏の氷はとても貴重なものだっただろう。冬の間に雪深い山中から天然の氷を切り出して、麓に造った『氷室(ひむろ)』と呼ばれる洞窟に貯蔵しておく。それが夏になると都へ献上され、貴族たちが暑気払いを行っていたよう。日本各地に氷室という地名や氷室神社が現存するのは、その名残だと言われている。
奈良時代に記された日本書紀には、「氷室の氷 熱き月に當りて 水酒に浸して用ふ」と氷を酒に浮かべて飲む様子が描かれている。東大寺正倉院に保管された文書には、「六月、七月、宮中では醴酒(こさけ)を造り、山城や大和国の氷室の氷を用いて天皇に供する」という記録も。日本酒のオン・ザ・ロックは、歴史ある贅沢な飲み方なのだ。
平安時代になると、あの清少納言の枕草子にも氷が出てくる。あてなるもの(上品なもの)のひとつとして、「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」と。現代語に訳すと、「削った氷に甘葛(古代から用いられた甘味料)をかけて、新しい金属製の椀に入れること」。元祖かき氷だ!
紫式部の源氏物語には、夏の盛りの夕食に酒や氷を振る舞う様子や、夕暮れに宮中の女たちが氷を胸や額に押し当てて涼をとっているシーンが登場する。
さて、奈良・平安時代に飲まれていたのは、どんな酒だったのか。日本酒の製造工程に、腐敗を防ぐための加熱処理が加わったのは江戸時代である。だから、その頃の酒は火入れをしていない生酒だ。長く保存がきかないので、そのつど醸造していたのだろう。
日本酒をオン・ザ・ロックで飲むなら、一般的なアルコール度数15度のものでは少し物足りない気がする。加水調整をしていない、しぼったままの生原酒がいい。アルコール度数は19度程度。氷を入れても薄まりすぎることがなく、しっかりと日本酒の味わいを楽しむことができる。
菊水酒造のラインナップでいえば『ふなぐち菊水一番しぼり』か、季節限定だが『菊水 夏の大吟醸生原酒』がオススメだ。好みでレモンやライムを浮かべると、ますます清涼感がアップする。
氷にも気を配りたい。オン・ザ・ロックに理想の氷は、固くて溶けにくいことだ。家庭の冷凍冷蔵庫で作った氷は、中心が白く濁ってしまうことが多く、あれは水に含まれる空気や不純物が集まったもの。製氷皿では外側から凍っていくので、急激に凍らせると空気や不純物が中に閉じ込められてしまうらしい。
そのぶん溶けやすく、なにより美しくない。煮沸してから凍らせたり、ミネラルウォーターを使うと、いくぶんましにはなるけど完璧に透明にするのは難しい。プロの製氷屋さんでは、専用装置で濾過したのちに−10℃ぐらいで凍らせるという。家庭の冷凍庫は−18℃なので、それよりもゆっくり凍らせることで空気や不純物を逃すというわけだ。
透明な氷が作れないのであれば、氷を使うのではなく、酒そのものを凍らせるのもおもしろい。しかし氷のように完全に固めてしまうのではなく、シャリシャリのシャーベット状にするのがポイント。『みぞれ酒』と呼び、これも暑い日にピッタリの日本酒の飲み方である。
【みぞれ酒の作り方】
日本酒の凝固点は−10℃前後なので、冷凍庫に入れっぱなしだと凍ってしまう。しかしボトルにタオルを巻くなどし、ゆっくり静かに冷却すると−12℃から−15℃ぐらいまで液体状態を保つことができる。この状態を『過冷却』と言う。そして、冷凍庫で一緒に冷やしておいたグラスに注ぐと、ふしぎ不思議、グラスの中で酒が結晶化して、見る見るシャーベット状に!
まさにみぞれ雪のようで、見た目も涼しげ。ふんわりやわらかく、ひんやり冷たい。口に含むとすーっと解けて、日本酒の香りと味わいが広がっていく。夏の日の客人に、こんなのがさっと出せたら、粋だろうなあ。
『ふなぐち菊水一番しぼり』商品情報
https://www.kikusui-sake.com/funaguchi/index.html
『菊水 夏の大吟醸生原酒』商品情報