菊水通信

2020年05月26日

酒を注ぐたびに小鳥がさえずる酒器が楽しい

酒は楽しく呑んだ方が絶対うまい!世の理不尽を愚痴りながら呑んだって、な〜んにも気持ちよくないし、そもそも酒というのは、ハレの日を祝うものであったのだから、パッといきたいものである。客を招いて酒席を設ける、あるいは親しい友人たちとの宴で、できるだけ楽しく呑もうと、先人たちは酒器にまでいろんな工夫を凝らした。   なかでも、これはウケること間違いなしの太鼓判は『うぐいす徳利』だ。鳴き徳利ともいわれる酒器で、代表的なデザインは六角柱の徳利の上に愛らしい小鳥が一羽とまっているというもの。これに酒を入れて杯に注ぐと、不思議不思議、小鳥が♪ピヨピヨッ・ピュー♪とさえずるのである。   何はともあれ実際の音を聴いてみよう。 [video width="640" height="480" mp4="https://kikusui-tsushin.com/wp/wp-content/uploads/2020/05/0db0298ed0d646d153ef34fff4854922.mp4"][/video]   音が出るしくみは、水笛の原理の応用だ。『うぐいす徳利』の内部は縦に二分割された構造で、底部で連結されている。だから酒を注ぐ際には水位の変化が生じ、それに応じて空気が出入りし、小鳥の形をした笛を鳴らすのだ。『うぐいす杯』というのもあって、こっちは飲み口に笛がついていて吸うと音が鳴るのである。   誰が考え出したのか、いつの頃からあるのか。酒が庶民に広く親しまれるようになったのは江戸時代で、その頃から陶磁器製の酒器が作られるようになり、遊び心のあるさまざまな形やデザインの酒器が誕生した。そのなかのひとつであろうと考えられているが、実際にこの『うぐいす徳利』が流行したのは明治から昭和にかけてであった。     コレクターの方のサイトを見せていただくと、萩焼や清水焼、九谷焼のアンティークな『うぐいす徳利』が紹介されていた。いずれもカタチはほぼ同じだが、全面に花が描かれたものや金や赤を使ったド派手なのもあった。動画の中に登場する『うぐいす徳利』は菊水が販売しているもので美濃焼。市松模様のものはオリジナルで、古来より好まれてきた市松模様を藍色のグラデーションで表現し、酒の器を表す象形文字「酉」がさりげなくあしらわれている。伝統的でありながらモダンなデザインだ。     梅の木が描かれた2点は既製品。ウグイスは春告鳥とも呼ばれ、"梅にウグイス"といえば、春の象徴であり、日本の雅な美しさの象徴だろう。梅とウグイスをセットで詠むことは古くから人気だったらしく、万葉集にも古今和歌集にもたくさん収められている。春を待ち焦がれる気持ち、待ちに待った春を愛でる心の表現に、"梅にウグイス"は最適なペアリングなのだ。   しかし実際には、梅の木にウグイスがやって来ることはあまりないという。梅花の蜜を吸いに来るのはメジロで、しかもこのメジロの方が私たちがイメージするウグイス色をしているからややこしい。本当のウグイス色はうぐいす餡のような緑ではなく、もっと茶色っぽい。そしてウグイスが♪ホーホケキョ♪とさえずるのは雑木林の藪の中だ。   ウグイスが美声を聴かせてくれるのは、春から夏にかけて。上手に♪ホーホケキョ♪と鳴けなくて、♪ホーホケッ♪みたいなのを繰り返しているのを聞いたことがあるが、それがちょうど梅の花の頃だ。若いウグイスがまだ上手く鳴くことができず、もうすぐやって来る繁殖期に美声で雌を惹きつけるための練習をしているのである。   さてさて『うぐいす徳利』は♪ホーホケキョ♪とは鳴かないけれど、♪ピヨピヨッ・ピュー♪はそれなりに愛らしい。1点1点微妙に鳴き方も異なるので、聴き比べをするのも一興。江戸では小鳥を飼うことが流行していて、手飼いのウグイスを持ち寄って、その声の優劣を競う『うぐいす合わせ』なる遊戯もあったというから。一杯やりながら遊戯に興じる姿が目に浮かぶようだ。   それにしても『うぐいす徳利』、なぜ六角柱なのか考えてみた。至った答えは、丸っこい徳利型よりもこの方がアウトドアへ持ち出しやすいということ。何本かを箱なり籠なりに収めたとき、六角形なら隣同士がぴったりくっついて収まりがいいし、倒れにくく、運びやすいだろう。梅や桜の時期に限ったことではなく、藤だろうが新緑だろうが、紅葉だっていい。美しい日本の自然を肴に、♪ピヨピヨッ・ピュー♪って、やってたんだろうな、昔の人は。さぞや愉しかろ。   ウイットに満ちた楽しい『うぐいす徳利』だが、最後にひとつだけ、知っておいた方がいいことがある。それは、 宴が終わって、徳利を洗ってるときにもピヨピヨ鳴いちゃうってこと。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所   菊水 オリジナル うぐいす徳利はこちら https://item.rakuten.co.jp/kikusui/21860/

2020年05月22日

「水入らず」「水くさい」の語源は 日本酒にあるって?!

「水入らず」とは、内輪の親しい間柄の者だけで、他人を交えないこと。たとえば、子どもが独立したので、夫婦水入らずで暮らしている。とか、たまには家族水入らずで旅行でもしたいね。などというふうに使われている。 「水くさい」は、親しい間柄なのに、よそよそしい、他人行儀だという意味。たとえば、同じ釜の飯を食った仲なのに水くさいこと言うなよ。ひとりで悩んで相談してくれないなんて水くさいじゃないか。というふうに使っている。   しかし「水入らず」も「水くさい」も、日本酒の飲み方から生まれた言葉だという説があることには驚いた。   日本酒らしい飲み方、『献酬 けんしゅう 』   わが国には昔から酒を酌み交わす風習があり、そうすることで人と人との交流を深めてきた。酒席に居合わせた者同士が杯を差しつ差されつするのは、ワインやウイスキーなどにはない日本酒らしい飲み方だ。このような飲み方を『献酬(けんしゅう)』という。   まず目下の者が目上の方に杯を捧げ、酒を注ぐのが礼儀作法で、これが元々の意味の『献杯』。逆に下の者が上の方から酒を注いでもらう際は、「お流れ頂戴いたします」と言葉にしていただき、飲み干したあとには返杯する。   酒を注ぐとき、右利きの人は自然に右手で徳利を持つだろう。では酒を受けるときはどうなるか? これは二人の位置関係にもよって変わってくるようで、献杯やお流れ頂戴と向かい合っているときは、右手で杯を持った方が相手も注ぎやすそうだ。   しかし横並びのときは、下手をすると窮屈な格好になって、お互いが注ぎにくく受けにくくなってしまう。そこで、スマートに見える酌のコツというようなものがあって、それはつまり、お互いに外側の手で徳利や杯を持てばいいのだということ。二人の外側を大きく回って、真ん中で酌をすればカッコイイ。   二人が差し向かいで酒を飲むとき、今ではひとりずつ自分の杯があるのが普通だが、献杯やお流れ頂戴ではひとつの杯でやりとりをした。ひとつの杯で酒を酌み交わすことによって心を通わすという考えだ。だけどいくらなんでも、自分の唇が触れた杯をそのまま相手に渡すのは失礼にあたると思われたのか、杯をすすぐ道具が生まれた。     江戸末期の『寛至天見聞随筆』という書物に「杯あらひの丼に水を入れ〜」とあり、もともとは大きな鉢や丼を使ったのだろう。当時は『杯スマシの丼(どんぶり)』と呼ばれた。その後、酒席により映えるように染付や色絵の磁器や漆器などの専用道具へと変わり、明治以降は『杯洗(はいせん)』と呼ばれるようになった。   どんなふうに使うのか、動画を観てみよう。 [video width="640" height="480" mp4="https://kikusui-tsushin.com/wp/wp-content/uploads/2020/05/9310088968e12546f2aa6515c59283b1.mp4"][/video]   そして、この杯を洗う行為が「水入らず」「水くさい」と関係している。 もうわかっちゃいましたよね。 そう、二人の仲なんだから杯を洗わなくていいよ=水入らず、杯を洗うなんて水くさいじゃないかという意味だったのだ。   ネット検索してみても、現在、杯洗を作っている窯元はほとんどなく、その存在は日本酒の文化や歴史に関心のある方にしか知られていないが、こういった作法があったことは大事に伝えていきたいと思う。そして、杯は人の数だけ用いるようになっても、差しつ差されつのコミュニケーションは守っていかなければ。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

2019年12月07日

こだわりの酒器は大人のたしなみ。お酒を楽しむ“ぐい呑み”をご紹介

お酒好きなら酒器選びにもこだわりたいもの。新潟県新発田市「菊水酒造」の蔵内に構える「菊水日本酒文化研究所」では、酒や酒文化に関する文献、酒を嗜む酒器など、三万点もの資料を収蔵しています。そのコレクションの中から自慢の酒器をご紹介する連載企画、第一弾です。 『スカーレット』のモデルとなった、陶芸家・神山清子さん 2019年9月に放送が始まったNHK朝の連続ドラマ小説『スカーレット』は、焼き物の里である滋賀県の信楽を舞台に女性陶芸家の半生を描くドラマです。ドラマのヒロイン、戸田恵梨香さんが演じる陶芸家のモデルとなった人物が、女性陶芸家の草分けでもある陶芸家の神山清子さん。   神山清子さんは1936年に長崎県佐世保市で生まれ、父親の仕事の都合で各地を転々とし、信楽に移り住みます。信楽焼の絵付けを請け負う会社で助手をしたあと、27歳で独立して本格的に作陶を開始しました。   当時、焼き物の世界は男社会。女性が窯場に入ると「穢(けが)れる」と言われ、窯焚きをする女性はいませんでした。そういった背景の中で神山清子さんは土と炎と格闘を続け、試行錯誤の末に生み出されたのが、釉薬をかけない独自の「信楽自然釉」です。   貴重なぐい呑を収蔵する「菊水日本酒文化研究所」 現在も現役の陶芸家として活躍している神山清子さんですが、実は、新潟にもゆかりのある陶芸家。1960年から約10年間、小千谷市内で作陶を行いながら、陶芸教室を開催していたことがあります。   そんな縁もあってか、「菊水日本酒文化研究所」では神山清子さん作の「信楽自然釉」ぐいのみが収蔵されています。   「見込み」と呼ばれる器の内側の部分は、信楽焼の特徴でもある粗い肌で温かみのある赤茶色。外側の「胴」と呼ばれる部分には、自然釉がたっぷりとかかっていて、まるで白い雪がキラキラと舞うような美しい表情を見せます。見る角度ごとにいろいろな景色を想像させられますね。   お酒に欠かせないおちょこや、ぐい呑といった酒器。生み出した作家のストーリーを知ってからお酒を注ぐと一味違う味わいが楽しめそうです。   住所:新潟県新発田市島潟750 菊水酒造株式会社 見学お申込み・お問合せ 電話:0254-24-5544(9:30〜16:30、日曜・祝日を除く) 営業カレンダーはこちらhttps://www.kikusui-sake.com/home/jp/labo/   「陶芸家・神山清子さんのぐい呑」についてはこちらでも紹介しています。 ブック版 菊水通信vol.8