菊水通信

2020年09月16日

おうちで「キャンプ気分」を味わってみよう!

いつもドタバタ、笑顔の絶えない菊水家の人々。 今日は、朝からみんなでリビングルームの家具をスッキリ片付けて、なにやら始めようという様子。 ホントは今年の夏、子どもたちをキャンプにデビューさせる予定だったけれど、やむなくステイホーム。 おうちでキャンプ気分を味わってみることにしたのだが……。   ・・・・・・・・・・・・・・   げんしゅパパ:いやー、テントも無事に張れたし、気分がいいねぇ。 もろみちゃん:いいねぇ。 からくちママ:テント張るのに1時間もかかるとは思わなかったわよ。 ふなぐちくん:アーンド、テーブルとチェアを組み立てるのに20分。これが実際に炎天下のキャンプ場で行われていたかと思うと、ゾッとしますよ。 げんしゅパパ:ま、いいじゃないか。予行演習になったわけだし。 ほら、キャンプ用品には他にもいろんなものがあるんだぞ。最近は便利な道具がたくさんあって、キャンプもとっても快適になりました。昔はもう大変だったんだから、テント張るのも、ごはんを作るのも。 からくちママ:今日より大変って、どんだけ苦労してたのよ! げんしゅパパ:……ともかく、今のキャンプ用品は本当にすばらしいです。 では、問題。キャンプで使うのにすぐれている道具とは、どんなものでしょうか? チッチッチッチッチ…… ふなぐちくん:ピンポン! 安い!! げんしゅパパ:や、安いにこしたことはないよね! もろみちゃん:ピンポン! 高い!! げんしゅパパ:うっ、確かにいいモノは、得てして高かったりするよね! からくちママ:そういえば、パパ、最近、調子に乗ってポチりすぎよ(ギロッ)。 ふなぐちくん:ピンポン! 保証期間が長い! げんしゅパパ:ほしょ……ふなぐち、お前、わざとやってるな。ブーー! キャンプで使うのにすぐれている道具とは、第一に「機能的」であることです。たとえば、野外で多少乱暴に扱っても壊れない頑丈さ、そして無駄のないデザイン。折りたたんでコンパクトになる携帯性などが、そうですね。 もろみちゃん:そうですね! ふなぐちくん:第二に「環境にやさしい」こと。ゴミを出さない、もしくは、ゴミを減らすための工夫があることも大切ですね。 げんしゅパパ:わかってるんじゃないか! からくちママ:第三に「主婦にやさしい」こと。せっかくのんびりしにきたのに家にいるより忙しいなんて、まっぴらゴメンこうむりたい。 げんしゅパパ:うぉっほん(むせて)、じゃ私はごはんでも作ろうかな。さ、ママはどうぞゆっくりしていてください。これでも飲みながら。 もろみちゃん:あー、きくすいだー。 ふなぐちくん:出ました、菊水の「ふなぐち菊水一番しぼり」! 説明しよう! かつて、搾ったばかりの加熱処理も割水もしない生原酒「ふなぐち」は、菊水の酒蔵を訪れた人だけが味わえる特別なお酒だったといいます。その評判はクチコミで広がっていきましたが、あまりにもデリケートなお酒であるため、品質の保持がむずかしく、商品化は困難でした。 もろみちゃん:真実はいつもひとつ! ふなぐちくん:それは、○ナン。商品化が「こんなん」だったのです。 しかし、菊水は諦めませんでした。開発から実に3年の月日が経った1972年、試行錯誤の末に日本初の缶入り生原酒の商品化に成功します。 からくちママ:あいかわらず、ふなぐちはお酒のこととなると天才的な記憶力を発揮するわね、お酒飲んだこともないのに。 げんしゅパパ:「ふなぐち菊水一番しぼり」は日本酒の常識をくつがえす画期的なスタイルでみんなをビックリさせたんだ。プシュッと開けてみると、フレッシュな味わいと喉ごしで二度ビックリ。今ではコンビニでも買える、とっても身近なお酒になっているんだよ。 もろみちゃん:きのうてき? げんしゅパパ:パチ、パチ、パチパチパチパチ!(スタンディングオベーション)はい、みなさん、もろみさんに拍手を。そうです! 私が言いたかったことは、まさにソレ。「ふなぐち菊水一番しぼり」は機能的で、キャンプにうってつけなんです。 ビン入りとは違ってアウトドアでも持ち運びなどが便利。フタが付いているので、飲んでいる途中にフタをしておけばホコリや虫が入る心配もなし。キャンプ場近くのコンビニで調達できる点も見逃せませんよ。   夕食後、ランプが灯る薄暗い部屋で、げんしゅパパとからくちママはお酒をちびりちびり。 子どもたちはあやとりをしながらまったり。。。   ふなぐちくん:こうして電気を使わずに過ごしてみるだけで、別世界に来たようだよ。楽しいね。 これで虫の声でも聞こえると、もっと雰囲気が出るんだけどなあ。そうだ、こういう時こそAIスピーカーの出番だ。「シリクサ! 虫の声を流して」   「ハイ、ナントカチューブで、鈴虫の声を再生シマス」  ……リーンリーンリーンリーンリーンリーン……   からくちママ:なんだかロマンチックね。ココならキャンプ場と違って蚊も蛾も来ないし、雨が降っても大丈夫。洗い物も水場まで行く必要もないし。テントがうまく張れなくても安心だし。シリクサもいるし。普段の暮らしって、そう考えてみると…… もろみちゃん:きのうてき?   全員:はははは! ワン! ワン!   げんしゅパパ: 早くキャンプ場で「ふなぐち菊水一番しぼり」を飲みたいね、ママ。 からくちママ:そりゃあもう、きっと美味しいことでしょうねぇ。 ふなぐちくん:星空の下で、本物の虫の声を聞きながら、ね。   終わり 文/渡辺 高 イラスト/かとうとおる

2020年08月31日

ごはんとして食べる米と日本酒になる米はどう違う?

8月も後半になると、南の地方から新米収穫の便りが届くようになりました。代表銘柄は何と言ってもコシヒカリでしょうか。しかしそれぞれの土地の気候や風土に適した地域限定の品種も栽培されていて、その総数は500種類以上にもなるとか。みなさんは、どんな品種が思い浮かびますか?   2019年産うるち米の品種別作付割合を見ると、上位5品種と主な産地は以下の通り。 1位:コシヒカリ/新潟、茨城、福島 2位:ひとめぼれ/宮城、岩手、福島 3位:ヒノヒカリ/熊本、大分、鹿児島 4位:あきたこまち/秋田、茨城、岩手 5位:ななつぼし/北海道 ※(公社)米穀機構まとめ   以下、6位:はえぬき、7位:まっしぐら、8位:キヌヒカリと続きますが、1位〜5位までで作付割合全体の61.8%を占め、コシヒカリに至ってはそれだけで33.9%!ダントツの人気なんですね。     以上8品種はすべて、ごはんとして食べる品種、いわゆる飯米(食用米)です。飯米で造った日本酒がないわけではないですが、一般的ではありません。日本酒の原料になるのは、酒造好適米と呼ばれる通称「酒米」。品種としては100種類以上あるのですが、一般の方が店頭で目にする機会はほとんどないでしょう。   では、飯米と酒米はどこが違うのか。酒米の特徴を見ていきます。   1)粒が大きく砕けにくい 米の胚芽や外層部にはタンパク質や脂質などが多く含まれています。これらは酒の雑味となってしまうため、酒米の場合は玄米の表面を30%〜50%削り落としてから使います。飯米が玄米を8〜10%削って糠を落とす程度なのに比べ、精米に耐えられる大きさと強さが求められるのです。 どれくらい大きいのでしょうか。米粒の大きさは、1000粒あたりの重量を測定して表します。2013年の農水省の資料では、コシヒカリの千粒重が22.4gなのに対して、五百万石は25.5g、山田錦は28.2gもありました。   2)心白(しんぱく)がある 酒米の中心部には、白くて不透明な「心白」があります。飯米はデンプンが詰まっているため透明感がありますが、酒米の中心はデンプンが粗く、隙間があるために白く見えるのです。しかしその隙間があるおかげで、麹菌が内部へ菌糸を伸ばしやすくなり、デンプンの糖化が進み、結果としてアルコール発酵を促します。心白が発現しているだけでなく、その形、大きさ、位置が中心にあることが、いい酒米の条件なのです。   3)外硬内軟で仕込みやすい 米を蒸した際に表面がさらっとしていて捌けがいいとか、仕込んだ際にもろみが溶けやすいのも酒米の特徴。稲の時も米粒が大きくて重いために倒れやすく、一般の飯米よりも栽培が難しいと言われる酒米ですが、酒造りの長い歴史の中で数え切れないほどの異種交配を繰り返し、酒造りに適した米へと改良されてきました。   酒米の人気銘柄は、酒米の王者と言われる「山田錦」と新潟県で開発された「五百万石」がツートップです。菊水酒造では新潟産の五百万石を中心に、五百万石の親である「菊水」や五百万石と山田錦を掛け合わせた「越淡麗」といった銘柄を主な原料としています。   おいしい米と、おいしい酒になる米では、特徴が異なることがわかりました。しかし、ここで新たな関心が——、酒米を炊いて食べたら、どんな味なの?と。本当においしくないのでしょうか?ひとたび興味を抱いてしまったら簡単に諦めることのできない編集部では、『酒米を食べてみ隊』を結成し、実際に炊いて食べてみることにしました。   入手した酒米は、新潟・新発田産の五百万石の玄米。隊員は、菊水通信チーフエディターのN、デザイナーのE、ライターのT。三者三様の実食レポいきまーす。   <E> 玄米を水に10時間以上浸してから炊飯器で普通に炊きました。玄米だからか炊きあがりの匂いが香ばしく、プチプチした食感がたまりません。大人だけにわかるおいしさかと思ったら、3歳と6歳の子どももパクパク食べておかわりしていましたよ。   <T> 米屋へ持ち込み、五つ星お米マイスターの中丸真一氏に最適に精米してもらいました。モチモチ感や甘みは少ないけどパサパサというわけじゃなく、コシヒカリよりササニシキ派の自分にはおいしい。五百万石で握った鮨なんて、食べてみたいなあ。   <N> 玄米を棒で突っつく人力精米にチャレンジするが、1時間以上突いてもほぼ変化なし。精米器と銀シャリの偉大さを感じつつ、人力精米をあきらめて、精米した五百万石を実食。酒米は醸してなんぼ!食べても美味しくないでしょう。そう思い込んでいたが「あれっ意外と食べられる」というのが第一印象。香りはやはり食用米にはかなわないが、食感はそんなに悪くない。なんか懐かしいこの感じ。あっそうか、昔、学生食堂で食べた標準米の味と香りだ。     想定していたオチは、「炊いてもイマイチ。やっぱ酒米はおいしい酒を造るためにあるんだね」というものだったのに、意外においしくてビックリ!予想外の感動と発見があった酒米実食体験でした。   <参考文献・参考サイト> 新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者 米穀機構 米ネット 品種別作付動向 https://www.komenet.jp   <精米協力> 中丸屋商店 tel.0467-82-2213

2020年08月21日

半年の穢(けが)れを祓い、夏を元気に乗り越えるための酒がある

日本の神社には、半年に一度行われる『大祓(おおはらえ)』という神事がある。日々の暮らしのなかで、私たちが重ねている小さな罪。ご先祖様を敬わなかったり、食べ物への感謝を忘れていたり、モノを粗末に扱ってしまったり。そんなことが穢(けが)れとなって身についちゃうと、やがてわが身に病や災いとなって返ってきちゃうから、穢れを祓わなければいけないと考えたのだ。 大祓には、6月晦日の『夏越(なご)しの祓』と大晦日の『年越しの祓』があって、いずれも本来は旧暦の6月と大晦日に行われるものだった。でも今は新暦に沿って行われる場合も多く、地域や神社によってまちまち。しかし旧暦と新暦ではひと月以上ズレる年もあったりして、ひと月もズレたら季節感が違ったり、神事の意味合いも変わっちゃう気がする。   日本で新暦が採用されたのは1873年のこと。旧暦の明治5年12月3日が、新暦の明治6年1月1日になった。新暦では約1カ月、季節が早くなったわけだ。現在の6月30日といえば梅雨の真っ只中だけど、旧暦の6月は水無月。水がない月なので、もう夏本番を迎えていただろう。 半年分の穢れを祓って、この夏を乗り越えよう。そして後半半年の健康と厄除けを祈願したのだろうか。夏の暑さを神の怒りと考えて、神意を和らげるという意味の「和(なご)し」と「夏越し」をかけたのではないかとも言われている。 ところでみなさん、旧暦のしくみをご存じ?新暦は地球が太陽の周りを1周する時間の長さを1年とする太陽暦。一方の旧暦は、月の満ち欠けをベースにした太陰太陽暦だ。 月に満ち欠けは29.53日で一巡するので、12カ月で354日となり、太陽暦より1年が11日短い。だから毎年どんどんズレが大きくなっていってしまう。そこで32〜33カ月に一度「うるう月」を入れて13カ月にし、ズレを戻していたのだ。 ちなみに今年2020年の旧暦6月晦日は、新暦では大きくズレて8月18日にあたる。 大祓の起源は、古事記や日本書紀の神話にはじまり、その後、平安時代には宮中の年中行事として定められたという。現在、日本各地の神社で執り行われる夏越しの祓では、神前に大きな輪っかが立てられ、これを参拝者がくぐることで罪や災いを取り除く『茅の輪くぐり』の神事が行われる。 輪に使われているのは、茅(ちがや)というイネ科の植物。茅の輪のくぐり方には、次のような作法がある。 <茅の輪くぐりの方法> まず、茅の輪の正面に立つ 1)一礼し、左足からまたいでくぐり、左回りで正面に戻る 2)一礼し、右足からまたいでくぐり、右回りで正面に戻る 3)一礼し、左足からまたいでくぐり、左回りで正面に戻る 4)一礼し、左足からまたいで神前へ進む 「8」の字を書くように3回くぐってから、もう1回くぐって前へ進むわけだ。またくぐっている際には次のような略拝詞※を唱えるとよいといわれている。 〜水無月の夏越しの祓いする人は 千歳(ちとせ)の命 延ぶというなり〜 ※略拝詞は地域や神社によって異なる。 夏越しの祓でコロナウイルスもやっつけたいところだが、茅の輪くぐりが密を作ってはいけないと、今年は神職だけで行ったり、作法通りではなく1回だけにしてというところもある。またこんな時代ならではの試みとして、車に乗ったまま輪をくぐる、ドライブスルー茅の輪なんてところもあるようだ。 参拝の後には、「夏越し饅頭」や「水無月」なる和菓子を食べる風習がある。だけど左党としては、やはり最後は『夏越しの酒』をいただきたい。   神事には、神様に神饌(しんせん:食事)を献上してもてなす。日本の神様はどなたも酒がお好きだから、お供えに日本酒は欠かせない。そして神事の後には、直会(なおらい)でそのお下がりをいただく。この酒が、いわゆる御神酒(おみき)である。夏越しの祓の際、参拝者に御神酒をふるまう神社もあると聞く。神の霊力が宿った聖なる酒だ。心のなかまで清められんこと間違いない。   <参考文献・参考サイト> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所 神社本庁 公式サイト https://www.jinjahoncho.or.jp

2020年08月05日

オンラインで蔵見学開催しました 文化編

2019年秋から、一般公開を始めた菊水日本酒文化研究所。 一般見学やイベント開催などを通じてお客様にも楽しんでいただいてまいりましたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の対応として、5か月ほど公開を休止しています。   そんな中、ここ菊水日本酒文化研究所を会場に、8月1日にオンラインの酒育セミナーを開催しました。 セミナーでは文化研究員が講師を務め、いくつかの資料をピックアップして当時の時代背景なども絡めながらご紹介させていただきました。     収蔵品の中には、今年の3月に発売された特殊切手「美術の世界」に採用されている伊万里の大皿によく似た食器も。切手のモチーフになった大皿は東京国立博物館に収蔵されているそうです。研究所が収蔵する3万点の資料の中には、このように何かのきっかけで、改めて価値を知るものもあるんです。     文献資料の中には江戸中頃~明治 出版・印刷文化の進展で流通した引札や錦絵、名所図会、草双紙、瓦版などもそろっています。 「料理早工風」は嘉永6(1853)年に作成されたもの。1853といえばペリー来航。当時の人々がどんな料理を食べていたのか一覧を眺めるだけで面白いですね。     また、20世紀初頭の料理書・婦人雑誌の付録「職業別榮養料理圖解」には、職業別におすすめのお料理が詳しく掲載されていて、お相撲さんや、野球選手のページも。現代はアスリートめし、なるものがあったりしますが、パフォーマンスを高めるための献立の視点は今に通じるものがあります。     一通り、ご覧いただいた後には、菊水日本酒文化研究所が企画したグッズも紹介させていただきました。 昔の人から日本酒のかかわり方、遊び方を学び、現代風にアレンジしたりしています。 こちらは、中央に浮き球があってお酒を注ぐと音が鳴るという仕掛け酒器で、その名も「風鈴杯」。 とっても涼しげな音で、今の季節にぴったりです。     一時間ほどのセミナーの間は、受講者の皆様からQ&Aやチャットで質問やご意見をお寄せいただき、オンラインながらも画面の先のお客様を感じながらお届けすることができました。 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 菊水酒造ではこれからもオンラインでのイベントを通じて、日本酒を面白く楽しくするコトづくりを行って参ります。   ◆セミナーでも紹介した収蔵品について、もっと知りたい方はこちら「菊水通信」日文研EYE ◎人と酒を結ぶもの https://www.kikusui-sake.com/book/vol11/#target/page_no=5 ◎ぐい吞みコレクション https://www.kikusui-sake.com/book/vol4/#target/page_no=5 ◎「引き札」 https://www.kikusui-sake.com/book/vol12/#target/page_no=5

2020年08月01日

夏にピッタリの日本酒の飲み方!オン・ザ・ロックとみぞれ酒

7月25日は『かき氷の日』。かき氷は夏氷(なつごおり)とも言い、7(な)2(つ)5(ご)の語呂合わせから制定された。また当時の日本最高気温40.8℃が、山形市で1933年7月25日に観測されたものだったこともその理由。ちなみに現在の日本最高気温は2018年7月23日に熊谷市で観測された41.1℃だ。   暑い季節になると冷たい飲み物が恋しくなる。酒も冷蔵庫でキンキンに冷やしたいものだが、四合瓶ならまだしも一升瓶では家庭用冷蔵庫に入らない。となれば、氷を浮かべてはどうだろう。日本酒に氷だなんてイマドキだね、と思われるかもしれないが、いやいやそんなことはないぞ。じつは奈良・平安の頃より、やんごとなき方々は酒に氷を浮かべて飲んでらっしゃったのである。   冷凍庫や製氷機のない時代、夏の氷はとても貴重なものだっただろう。冬の間に雪深い山中から天然の氷を切り出して、麓に造った『氷室(ひむろ)』と呼ばれる洞窟に貯蔵しておく。それが夏になると都へ献上され、貴族たちが暑気払いを行っていたよう。日本各地に氷室という地名や氷室神社が現存するのは、その名残だと言われている。   奈良時代に記された日本書紀には、「氷室の氷 熱き月に當りて 水酒に浸して用ふ」と氷を酒に浮かべて飲む様子が描かれている。東大寺正倉院に保管された文書には、「六月、七月、宮中では醴酒(こさけ)を造り、山城や大和国の氷室の氷を用いて天皇に供する」という記録も。日本酒のオン・ザ・ロックは、歴史ある贅沢な飲み方なのだ。       平安時代になると、あの清少納言の枕草子にも氷が出てくる。あてなるもの(上品なもの)のひとつとして、「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」と。現代語に訳すと、「削った氷に甘葛(古代から用いられた甘味料)をかけて、新しい金属製の椀に入れること」。元祖かき氷だ! 紫式部の源氏物語には、夏の盛りの夕食に酒や氷を振る舞う様子や、夕暮れに宮中の女たちが氷を胸や額に押し当てて涼をとっているシーンが登場する。   さて、奈良・平安時代に飲まれていたのは、どんな酒だったのか。日本酒の製造工程に、腐敗を防ぐための加熱処理が加わったのは江戸時代である。だから、その頃の酒は火入れをしていない生酒だ。長く保存がきかないので、そのつど醸造していたのだろう。   日本酒をオン・ザ・ロックで飲むなら、一般的なアルコール度数15度のものでは少し物足りない気がする。加水調整をしていない、しぼったままの生原酒がいい。アルコール度数は19度程度。氷を入れても薄まりすぎることがなく、しっかりと日本酒の味わいを楽しむことができる。   菊水酒造のラインナップでいえば『ふなぐち菊水一番しぼり』か、季節限定だが『菊水 夏の大吟醸生原酒』がオススメだ。好みでレモンやライムを浮かべると、ますます清涼感がアップする。     氷にも気を配りたい。オン・ザ・ロックに理想の氷は、固くて溶けにくいことだ。家庭の冷凍冷蔵庫で作った氷は、中心が白く濁ってしまうことが多く、あれは水に含まれる空気や不純物が集まったもの。製氷皿では外側から凍っていくので、急激に凍らせると空気や不純物が中に閉じ込められてしまうらしい。   そのぶん溶けやすく、なにより美しくない。煮沸してから凍らせたり、ミネラルウォーターを使うと、いくぶんましにはなるけど完璧に透明にするのは難しい。プロの製氷屋さんでは、専用装置で濾過したのちに−10℃ぐらいで凍らせるという。家庭の冷凍庫は−18℃なので、それよりもゆっくり凍らせることで空気や不純物を逃すというわけだ。   透明な氷が作れないのであれば、氷を使うのではなく、酒そのものを凍らせるのもおもしろい。しかし氷のように完全に固めてしまうのではなく、シャリシャリのシャーベット状にするのがポイント。『みぞれ酒』と呼び、これも暑い日にピッタリの日本酒の飲み方である。     【みぞれ酒の作り方】 日本酒の凝固点は−10℃前後なので、冷凍庫に入れっぱなしだと凍ってしまう。しかしボトルにタオルを巻くなどし、ゆっくり静かに冷却すると−12℃から−15℃ぐらいまで液体状態を保つことができる。この状態を『過冷却』と言う。そして、冷凍庫で一緒に冷やしておいたグラスに注ぐと、ふしぎ不思議、グラスの中で酒が結晶化して、見る見るシャーベット状に!   まさにみぞれ雪のようで、見た目も涼しげ。ふんわりやわらかく、ひんやり冷たい。口に含むとすーっと解けて、日本酒の香りと味わいが広がっていく。夏の日の客人に、こんなのがさっと出せたら、粋だろうなあ。   『ふなぐち菊水一番しぼり』商品情報 https://www.kikusui-sake.com/funaguchi/index.html 『菊水 夏の大吟醸生原酒』商品情報 https://www.kikusui-sake.com/home/jp/products/p026/

2020年08月01日

冷酒は”ひやざけ”と読むか “れいしゅ”と読むか

皆さんは「冷酒」を「ひやざけ」と読むか 「れいしゅ」と読むか、その違いわかりますか? 実はこれ、明確な答えがあるんです。本来「ひやざけ」は常温酒のことで、「れいしゅ」は冷蔵庫などで冷やした酒のことです。 つまり居酒屋などで「日本酒を冷やで」という注文は「日本酒を常温で」ということになります。しかし「常温なのに冷やってなんだろう?」、と誰もが首を傾げてしまいます。その理由は高度成長期以前、日本には冷蔵技術が乏しく、日本酒を飲むには温めるか常温の2通りしかなかったのが所以です。後に日本が豊かになると、巷に冷蔵庫が普及し始めます。それとともに酒造技術も発達しました。日本酒を冷やすことにより、よりパフォーマンスを高める吟醸酒や生酒が蔵元で生産されるようになると、冷やして美味しい吟醸酒などが人気を博し、「ひやざけ」ではない「れいしゅ」というジャンルが確立されたからと言うことです。   ところで「ひやざけ」と「れいしゅ」を飲むシチュエーションは明らかに異なるような気がします。 昭和の日常を描いた映画「東京物語」や「早春」などで、頻繁に登場するのがおでん屋のシーンです。ほんのり色気のある女将さんを囲み、主演の笠智衆と旧友がおでんを肴に酒を酌み交わす場面は、まさに「ひやざけ」です。戦後間もない作品なので、まだ吟醸酒や生酒がなかった頃ということもありますが。しかしおでん屋というシチュエーションは紛れもなく「ひやざけ」がピッタリですね。作品を手がけた監督、小津安二郎自身が銀座のおでん屋「お多幸」の常連だったこともあり、彼の作品におでん屋が多く反映されたのでしょう。 また下町のうらぶれた居酒屋のイメージは「ひやざけ」そのものです。高倉健主演の「居酒屋兆治」や小林薫主演の「深夜食堂」など、煮込みや焼きとんなどがメインの居酒屋は「ひやざけ」がよく似合います。     一方「れいしゅ」となるとどこか高級感の漂う風情といった感じでしょうか。しつらえのいい料理屋で、本マグロの赤身や中トロ、生牡蠣を肴に一献となると、それに見合うお酒はやはり「れいしゅ」の印象ではないでしょうか。     シチュエーションによって印象の異なる日本酒。冷やして、燗をつけて、はたまた常温でと、日本酒は温度によっても違う味わいを演出してくれます。これは世界的に見ても類を見ないお酒と言えるのではないでしょうか。

2020年07月15日

贈りものを風呂敷に包む。この日本ならではの『包みの文化』を日本酒にも

鎌倉にしてはなだらかな坂道を、そのひとは白い日傘を差して上ってきた。淡い藍鼠色の絽の着物に、アイボリーの帯と淡いピンクの帯締め。午前中だったとはいえ、空には太陽がギラギラしはじめているのに、そのひとだけは別の涼しい空気をまとっているようだった。すれ違う際に、なぜか少し緊張したのを覚えてる。 日傘に隠れた表情はよく見えなかったけれど、折り曲げた左腕に四角い風呂敷包みが乗っかっていた。あれはたぶん、お中元の贈りものだったのだろう。包まれていたのは、そうだな、老舗の菓子舗で求めてきた水菓子だったかもしれないな。毎年、そろそろ梅雨も明けようかという頃になると、ふと”そのひと”のことを思い出すのだ。   お中元の時期は、地域によって少し異なる。北海道では7月中旬から8月15日まで。東北や関東では7月初旬から15日までと短く、7月16日以降は暑中見舞い、残暑見舞いという扱いになる。北陸・甲信越は関東型の地区と北海道型の地区に分かれ、東海・関西・中国・四国では7月中旬から8月15日。九州では8月1日から15日までが一般的だが、沖縄だけは旧暦の7月15日までとなっている。 もともとは先様へ直接持参するものだったのだろうが、現在はもちろん配送することがほとんどだ。さらには特設コーナーへ出向くこともなく、ネットで簡単に品を選ぶことも増えている。もはやコミュニケーションではなく、モノのやりとりに終わってないか。遠方の方に贈る場合はしかたないけど、1時間かからない距離なら持参するのもいいかもしれないな。そう、風呂敷に包んでね。   「包」という字は、母の胎内に子が宿っているさまを表している。包むことは、そこに包まれているものを大切に「いつくしむ」気持ち。母体から生まれ出ると、なるほど、子は「己」となるわけだ。 また「つつしむ」や「つつましい」という言葉は、包むが語源とされている。相手を思って贈答品を選び、相手を敬う心と一緒に風呂敷に包む。日本ならではの『包みの文化』と言えるだろう。   さて、その風呂敷、奈良時代に宝物を包む布として使われたのがはじまり。風呂敷と呼ばれだしたのは室町時代からで、蒸し風呂の板場に敷いたり、全国から集まった大名たちが風呂場で脱いだ衣服を取り違えないように、家紋入りの布に包んだりしたのだとか。そして江戸時代には商人が商品を包んで運び、旅行の際には荷物を包んでカバン代わりにするなど使い方が広がっていった。   風呂敷は反物を裁断して、端を三ツ巻きに縫い上げてある。縫った両端が天地つまり丈で、生地の巾が左右である。じつは正方形ではなく、巾よりも天地が若干長い。サイズは巾という単位で表し、中巾(約45cm)から七巾(約230cm)まで10種類ほど。通常私たちがよく目にするのは、二巾(約68〜70cm)から二四巾(約90cm)だ。   風呂敷を使った包み方はいろいろあるが、鎌倉で見かけた”そのひと”のように菓子折などを包む際の代表的なものは「お使い包み」だろう。   ■お使い包み   四角いものだけでなく、酒などの瓶を包むこともできる。しかも、ぶら下げて持ち運びしやすいように包めるので、手提げ袋がいらなくなるのもうれしい。   ■瓶1本包み 四合瓶なら二巾(68~70cm)、一升瓶なら二四巾(90cm)が最適。     2本だって、いけちゃう。 ■瓶2本包み 四合瓶なら二巾(68~70cm)、一升瓶なら三巾(104cm)が最適。2本の瓶の形が同じか、よく似ているほどきれいに安定して包める。 どうです。日本酒の風呂敷包み、なかなかカッコイイのでは? 中身の入った状態で四合瓶(720ml)1本の重量は約1.2kgほどなので、力のない方でも難なく持てる。ちなみに一升瓶(1800ml)だと重量は約2.8kgあるけれど、持ち手がポリ袋みたいに指に食い込まないので痛くならない。   市場に出まわっている風呂敷の色柄も豊富で、昔ながらのシブイものからモダンなデザインのものまで、よりどりみどり。そこに贈る人のセンスも発揮できるってもんだ。お中元やお歳暮の贈り方としてはじつに風流で粋だし、パーティなどお呼ばれの際にこんなふうに持参したら、かなりインパクトありそう。

2020年06月30日

見られています。アナタの箸の持ち方・使い方

中国唐代の詩人、李白は、酒にまつわる作品を数多く残している。その中に五言古詩『月下独酌』がある。この詩は、花の咲く木々の下で独り酒に興じるが、一緒に酒を酌み交わす相手がいなく、月とその月光に照らされた自分の影、それを擬人化し仲間に見立てて共に戯れ酔いしれる。という風流な詩だ。 一人酒でこんな妄想にふけるのもいいけど、やはり仲間と酒を酌み交わすのはなお楽しいものだ。だけど居酒屋などで、箸の使いかたがおかしな人に出会うと、なんとも気がそぞろになってしまう。   箸の行儀作法には「移り箸」、「込み箸」、「ねぶり箸」、「探り箸」、「迷い箸」、「空箸」、「刺し箸」と様々ある。これは、お互いに箸を交わす、刺身、天ぷらの盛り合わせ、鍋などの場面で相手にいい印象を与えないものだ。   そしてもう一つが箸の持ち方も気になる。テレビ番組の食レポでも、希にタレントさんの箸の持ち方がおかしな人を見かける。世間では箸使いで「その人の育ってきた家庭環境がわかる」とも語られる。 むかし箸の持ち方を矯正した話を、ある食の評論家から聞いたことがある。 彼は三人兄弟の末っ子で、長男が左利きだったので、母が無理やり右利きに矯正したら吃音になってしまった。母はそれを後悔し、長男の苦い経験があることから、彼は矯正されないままに育ったそうだ。 評論家になった後に、自分の箸の持ち方では評論の信憑性に欠けると思われることに気付き、練習をして強制したと語っていた。   彼の場合は食の評論家という立場。下手な箸使いで批判の目にさらされるのは間違いない、だから矯正する機会に恵まれたと言っていいが、一般の人々はそのまま、というのが多数だろう。   しかし箸文化の日本において、これは最低限の行儀作法。箸をまともに使えないと人格まで疑われる可能性すらある。 和食の職人は丁稚の頃、箸が使えなければ親方に叱られる。そして矯正される。箸がきちんと使えないと和食では致命的で、特に飾りつけができない。なによりも和食店の多くはオープンキッチンなので、客の目の前で箸を使う場面があるからだ。   いずれにしても箸を美しく操る人と一緒にすごす酒宴は、不思議に気持ちがいいものだ。 「箸の作法がなってない人を見たくない」という人もいるだろう。ならば李白の『月下独酌』よろしく、一人酒を楽しめばいい。   では、ここでやってほしくない箸の作法を少し紹介しよう。 あなたの箸さばき、持ち方はいかがなものか。酒宴の席できっと誰かに見られているはず。   『移り箸』 「菜移り」ともいい、一つの肴に箸を付け、続いて別の肴に箸を付けること。これは、先に食べた肴を味わっていない証拠で、亭主にも料理人にも失礼。一つ肴をいただいたら、一口酒を飲み、じっくり味わってから別の肴をいただくこと。   『込み箸』 口に運んだ肴が大き目のとき、箸の先で口の中に押し込むなど、みにくい食べ方。   『舐(ねぶ)り箸』 箸についてしまった物を舐めて取ったり、箸の先を口に入れて取ったりすることで、見た目にも汚い食べ方。   『探(さぐ)り箸』 汁の中の身を箸の先で探すことを言うが、ついやりがちなので気を付けたいもの。   『迷い箸』 どれを食べようかと、器の上で箸をあちこち移すことで、これもお行儀の悪い食べ方のひとつ。   『空箸』 肴をはさみかけて途中でやめることで、最も行儀がわるい行為。   『刺し箸』 いも類などを箸で刺して食べること。男性はやりがち。すべってはさみにくかったら、箸で半分に切ってみよう。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

2020年06月30日

仕込み水によって性別が分かれる? 男酒・女酒

昔から「名水あるところに銘酒あり」といわれている。そりゃそうだ、日本酒の成分のアルコールや糖分、アミノ酸は20%ほどで、あとの80%以上は水なんだから、その水が酒の質に影響しないわけがない。米と米麹だけでなく、水も重要な原料である。どんな水を使うかで、酒の味わいも違ってくるのだ。   また製造工程でも大量の水を使用し、一升の酒を造るには八升の水が必要と言われるほどだ。だから蔵元には水に対する強い思いがあり、いい水がふんだんに得られる場所に蔵は建てられてきた。 ちなみにビールやウイスキーのメーカーにとっても水は大事。ウイスキーの世界では “Mother Water” なる言葉もある。日本酒も然りである。しかし日本酒と同じ醸造酒でありながらワインはそうではない。ワインは水を加えずブドウだけを原料に仕込むからだ。     菊水の蔵があるのは、新潟県新発田市の越後平野のなか。加治川が大地を潤し、周辺には豊富な地下水脈が流れている。これらの川や水脈は、新潟と山形両県の県境をなす飯豊連峰の御西岳、北股岳を水源とし、春まだ白い山々の雪解け水が深く地中に染み込み、長いときを経て清冽な湧き水となったものである。   名水百選などに選ばれている水ではないが、この水あっての菊水であり、この水と新潟の米と新発田の風土が揃って、菊水の味わいは生まれくる。そんなふうな水と酒質の関わり合いを代表するものに、兵庫は「灘」の酒と京都の「伏見」の酒がある。「灘の男酒」「伏見の女酒」なんていう表現をお聞きになったことがないだろうか。   灘の酒造メーカーが使うのは、「宮水」と呼ばれる水。宮水とは西宮の水の略で、灘は神戸市灘区、西宮は西宮市だ。JRの駅でみた距地では12.8km離れている。しかし酒造メーカーは、それぞれがこの地に井戸を有していて、タンクローリーや地下のパイプラインを使って酒蔵まで水を運んでいるという。それほどまでにこだわる宮水とは?   江戸時代、灘の酒は夏を越すと味が落ちたのに、西宮の酒は逆に味が冴えて人気があった。両地に蔵を持っていた山邑佐太衛門さんは、同じ米を使ったり、杜氏を交替させたりしたが、結果は同じ。そこで仕込み水の違いに気づき、西宮の蔵で使っていた水を船で運び、灘の蔵で醸造したところ、同じ酒質になったのだとか。   宮水に際立つ特徴は、その高い硬度にある。水の硬度は含まれるカルシウムとマグネシウムの量から産出され、WHO(世界保健機関)の定義では次のようになる。 ・硬度60mg/L未満………軟水 ・硬度61〜120mg/L………中硬水 ・硬度121〜180mg/L………硬水 ・硬度181mg/L以上………超硬水 そして宮水は180mg/L程度の硬水なのだ。   酒造に適した水の条件は、酵母の増殖に欠かせないカルシウム、カリウムやリンなどのミネラルが豊富に含まれ、酒の風味や色を損ねる鉄分が少ないこと。宮水では、そのミネラル成分によって発酵が促進され、腰のしっかりした辛口の酒に仕上がる。これが灘の男酒といわれるゆえんである。   一方、伏見はかつて「伏水」と記され、昔から良質の地下水に恵まれていた。伏見の女酒を生み出すのは京の名水「伏水」。氏神である御香宮神社には御香水と呼ばれる水が湧き出ており、名水百選の第1号なのだが、この水と同じ水脈なのである。   水質は鉄分が至極少ない中硬水で、その硬度は60〜80mg/Lだ。硬水に比べると時間をかけて発酵が進むため、酸が少なく、なめらかなキメの細かい風味に仕上がるのが特徴。灘の男酒に対して伏見の女酒と、まるで両端のようにおもしろく対比されてしまっているが、軟水を使っているわけではないし、ましてや酒が甘口というわけでもない。   実際のところ、酒造技術の発達した現在では軟水〜硬水までどのような硬度の水を用いても発酵をコントロールできるようになっている。そして酒の香りや辛口・甘口といった味わいも、ニーズに応じて多彩な酒質を造り分けることが可能だ。   さて、新潟の蔵元が酒造に使う地下水は、多くのところで硬度15〜20mg/Lという超軟水である。ミネラル分が少なく、かつては酒造りに向かないとされた時期もあったのだが、今や誰もが認める酒どころ。知恵を絞り、技を磨くことで、新潟の水のよさを引き出せるようになり、新潟の酒の魅力である淡麗辛口の味わいを実現したのだ。   余談だが、軟水はまろやかで無味無臭に近く、飲み水としておいしい。国産のミネラルウォーターのほとんどが軟水であることからも、それがわかる。また料理にも最適で、素材の風味を活かした繊細な味付けの和食には、やはり軟水でなければならない。   <参考文献> 坂口謹一郎酒学集成1 著/坂口謹一郎 発行/岩波書店 マザー・ウォーター[酒と水の話]  編/酒文化研究所 発行/紀伊国屋書店 日本酒の科学 著/和田美代子 監修/高橋俊成 発行/講談社    

2020年06月23日

「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」の違いをスッキリ!

日本酒のラベルやパッケージには、銘柄とは別に「本醸造」「純米」「吟醸」といった表記がある。居酒屋の壁に貼られた日本酒のメニューを見ても、酒の名前のあとに(純米・新潟)などと表記されていることが多い。都道府県が産地なのはわかるけど、その前のワードは何を意味するのか? それぞれどう違うのか? そのへんを今回はスッキリさせようと思う。   日本酒の第一の定義は「米・米麹・水を原料として発酵させて、濾したもので、アルコール分が22度未満のもの」とされている。第二第三の定義もあって、そこには少しなら混ぜていいものが記されているのだが、その代表的なのが「醸造アルコール」。これを添加しているかいないかが、大きな分類となる。   純米酒は、もちろん米だけで造られていて、醸造アルコールは添加されていない。本醸造酒には、醸造アルコールが添加されている。な-んて書き方をすると、純米酒の方が偉いみたいに勘違いする人が出てきそうだけど、決して優劣を表しているのではない。原料や製造方法の違いが消費者にわかるように名づけられたわけで、(その割にはわかりにくいんだけど)、これらを『特定名称酒』という。   『特定名称酒』には「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」を含め全部で8種類のタイプがあり、国税庁による『清酒の製法品質表示基準』で決められている。特定名称酒に属さないものもあって、これは通称「普通酒」。通称というのは、つまり表示すべき事柄がないため、ラベルやパッケージに表記されてないということだ。   さて、ここからは本題の特定名称酒の話。特定名称酒の条件は「3等以上に格付けされた米を原料に使っていること」と「麹米の使用割合が15%以上であること」だ。大きく2つに分けると、先ほど書いた純米か否かである。純米タイプには「純米酒」「特別純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」の4種があり、そうでないタイプには「本醸造酒」「特別本醸造酒」「吟醸酒」「大吟醸酒」の4種がある。比べてみよう。       本醸造酒や吟醸酒に添加する醸造アルコールとは、トウモロコシなどを原料に製造された蒸留酒で、白米重量の10%以下に制限されている。添加することでフルーティな香りを引き出しやすく、スッキリとした味わいに仕上がっているのが特長。   吟醸酒は、上表からもわかるように「精米歩合」が低い。原料米を60〜50%まで精米して仕込んでいて、吟醸香と呼ばれるフルーティで華やかな香りが特長だ。60%以下で吟醸酒、50%以下で大吟醸酒。なかには30%台まで磨いている大吟醸酒も存在する。   純米酒は、醸造アルコールが添加されておらず、米本来の甘い香りやふくよかな旨味が味わえるのが特長。そのなかにも純米でありながら吟醸タイプ、大吟醸タイプがある。   アタマに「特別」とつくものは、特定名称酒のなかでも特別ややこしい。本醸造酒には精米歩合70%以下という規定があるが、たとえば60%以下に磨いて造った場合には特別本醸造酒と名乗ってもいい。純米酒には精米歩合の規定がないため、純米吟醸酒ほどではないが、よく精米した場合に特別純米酒となる。   特別扱いはほかにもあり、何か特別な醸造方法を採用して認められた場合も「特別」を名乗ってよいとされている。たとえば、特別な米。希少な米をわざわざ栽培して酒を造ったら、もちろん「特別」だ。しかし何を持って特別とするかの明確な基準はないので、ちょっと不思議なタイプではある。   日本酒の蔵元は日本全国に広がっている。その数も多く、それぞれの蔵元が個性あふれる日本酒を造っているわけだが、強いていえば、特定名称酒には味わいの傾向というものがあるように思う。だから本醸造なら本醸造、純米なら純米、吟醸なら吟醸、普通酒なら普通酒というふうに、同じタイプの酒を飲み比べると蔵元の個性がよくわかるのだ。