北越後だより

2020年06月23日

「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」の違いをスッキリ!

日本酒のラベルやパッケージには、銘柄とは別に「本醸造」「純米」「吟醸」といった表記がある。居酒屋の壁に貼られた日本酒のメニューを見ても、酒の名前のあとに(純米・新潟)などと表記されていることが多い。都道府県が産地なのはわかるけど、その前のワードは何を意味するのか? それぞれどう違うのか? そのへんを今回はスッキリさせようと思う。   日本酒の第一の定義は「米・米麹・水を原料として発酵させて、濾したもので、アルコール分が22度未満のもの」とされている。第二第三の定義もあって、そこには少しなら混ぜていいものが記されているのだが、その代表的なのが「醸造アルコール」。これを添加しているかいないかが、大きな分類となる。   純米酒は、もちろん米だけで造られていて、醸造アルコールは添加されていない。本醸造酒には、醸造アルコールが添加されている。な-んて書き方をすると、純米酒の方が偉いみたいに勘違いする人が出てきそうだけど、決して優劣を表しているのではない。原料や製造方法の違いが消費者にわかるように名づけられたわけで、(その割にはわかりにくいんだけど)、これらを『特定名称酒』という。   『特定名称酒』には「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」を含め全部で8種類のタイプがあり、国税庁による『清酒の製法品質表示基準』で決められている。特定名称酒に属さないものもあって、これは通称「普通酒」。通称というのは、つまり表示すべき事柄がないため、ラベルやパッケージに表記されてないということだ。   さて、ここからは本題の特定名称酒の話。特定名称酒の条件は「3等以上に格付けされた米を原料に使っていること」と「麹米の使用割合が15%以上であること」だ。大きく2つに分けると、先ほど書いた純米か否かである。純米タイプには「純米酒」「特別純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」の4種があり、そうでないタイプには「本醸造酒」「特別本醸造酒」「吟醸酒」「大吟醸酒」の4種がある。比べてみよう。       本醸造酒や吟醸酒に添加する醸造アルコールとは、トウモロコシなどを原料に製造された蒸留酒で、白米重量の10%以下に制限されている。添加することでフルーティな香りを引き出しやすく、スッキリとした味わいに仕上がっているのが特長。   吟醸酒は、上表からもわかるように「精米歩合」が低い。原料米を60〜50%まで精米して仕込んでいて、吟醸香と呼ばれるフルーティで華やかな香りが特長だ。60%以下で吟醸酒、50%以下で大吟醸酒。なかには30%台まで磨いている大吟醸酒も存在する。   純米酒は、醸造アルコールが添加されておらず、米本来の甘い香りやふくよかな旨味が味わえるのが特長。そのなかにも純米でありながら吟醸タイプ、大吟醸タイプがある。   アタマに「特別」とつくものは、特定名称酒のなかでも特別ややこしい。本醸造酒には精米歩合70%以下という規定があるが、たとえば60%以下に磨いて造った場合には特別本醸造酒と名乗ってもいい。純米酒には精米歩合の規定がないため、純米吟醸酒ほどではないが、よく精米した場合に特別純米酒となる。   特別扱いはほかにもあり、何か特別な醸造方法を採用して認められた場合も「特別」を名乗ってよいとされている。たとえば、特別な米。希少な米をわざわざ栽培して酒を造ったら、もちろん「特別」だ。しかし何を持って特別とするかの明確な基準はないので、ちょっと不思議なタイプではある。   日本酒の蔵元は日本全国に広がっている。その数も多く、それぞれの蔵元が個性あふれる日本酒を造っているわけだが、強いていえば、特定名称酒には味わいの傾向というものがあるように思う。だから本醸造なら本醸造、純米なら純米、吟醸なら吟醸、普通酒なら普通酒というふうに、同じタイプの酒を飲み比べると蔵元の個性がよくわかるのだ。      

2020年06月03日

「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」の違いをスッキリ!

「生」といえば、みなさん、生ビールを一番に思い浮かべられるだろうが、いやいや「生」はビールだけじゃない。日本酒にも「生」のつく酒がある。しかも「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」と3種類も! これらは「生」のつかない日本酒とどこが違うのか、そしてこれら3つはどう違うのか、そこらへんのところをスッキリさせようと思う。   日本酒が、麹菌や酵母といった微生物の働きによって造られるのはご存じのとおり。そして、良い味を生み出すのも、味を崩してしまうのもまた微生物に起因する。たとえば、搾ったあとのお酒の味を変える要因になるのは、麹が生産した酵素。これを防ぐために、通常の製造工程では上槽後(搾ったあと)に「火入れ」と呼ぶ加熱処理が行われる。熱を加えて酵素を失活させて、味わいを保つわけだ。   また火入れには殺菌の目的もある。一般的な日本酒のアルコール度数は15度程度あるので、たいていの菌は生きていられないのだが、「火落菌(ひおちきん)」と呼ばれる乳酸菌はアルコールに強い。酒のなかでどんどん増殖しちゃう。ホントに厄介なヤツで、コイツに汚染されると酒の温度が上昇して白濁し、酸っぱい異臭を放つようになってしまう。いわゆる腐造である。だから火入れは、貯蔵中の腐造を防ぐためでもあるのだ。   「火入れ」の字面からは、相当な高温を想像してしまうだろうが、60℃程度の低温で火落菌はやっつけられる。方法としては、熱湯を通した管や熱交換式のプレートヒーターに間接的に酒を触れさせたり、瓶に詰めてから湯煎殺菌されたり。あまり熱いとアルコールが飛んでしまうので、温度は60〜65℃。また高温のままでは日本酒の香りが損なわれるため、火入れ後は速やかに冷却しなければならない。     通常、日本酒は2回の火入れが行われる。1回目は醪を搾ったあとタンクに貯蔵する前。2回目は出荷にそなえてビンや容器に詰める前。そして、この2回の火入れをまったく行わず、生の状態で出荷される日本酒のことを「生酒」と呼ぶ。火入れの有無や回数、タイミングによって名称の違いは次のように異なる。 <生酒> まったく火入れを行っていない日本酒。加熱処理をせずそのままの状態で出荷されるため、フレッシュな若々しい味わいが楽しめるが、とてもデリケートな酒なので、製造にも輸送にも高度な品質管理が求められる。本生、生々と呼ばれることも。購入後は冷蔵庫保存し、開栓後はなる早で飲み切りたい。   <生貯蔵酒> 生のまま貯蔵し、出荷前に一度火入れを行った日本酒。生酒のようなフレッシュな味わいとまろやかな旨味が楽しる。生酒ほど徹底した品質管理は必要ないが、通常の日本酒と比べると味わいが変化しやすいので、購入後はできるだけ冷蔵庫で保管が好ましい。   <生詰酒> 貯蔵前に一度火入れを行い、出荷前には火入れを行っていない日本酒。生酒や生貯蔵酒に比べ酸味に落ち着きがあり、貯蔵熟成による熟れた果実のような甘い香りとジューシーな旨味がそのまま詰まっている。 秋に店頭に並ぶ「ひやおろし」は、冬から春に造った酒に一度火入れし、夏の間熟成させ、火入れを行わずに出荷されるもので、生詰酒の一種。冷や(生)のまま、卸す(出荷する)という意味で「ひやおろし」と呼ばれる。       「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」の違い、いかがでしたか? 菊水の「ふなぐち」は生酒のなかの「生原酒」といい、上槽後に一度も火入れをしていないだけでなく、水を加えてのアルコール調整もしていない、本当の搾ったまんま。かつては蔵でしか飲めなかったデリケートな酒だが、高度な濾過技術やアルミ缶採用により常温での流通を可能にしている。   『ふなぐち菊水一番しぼり』商品情報 https://www.kikusui-sake.com/funaguchi/index.html

2020年05月26日

酒を注ぐたびに小鳥がさえずる酒器が楽しい

酒は楽しく呑んだ方が絶対うまい!世の理不尽を愚痴りながら呑んだって、な〜んにも気持ちよくないし、そもそも酒というのは、ハレの日を祝うものであったのだから、パッといきたいものである。客を招いて酒席を設ける、あるいは親しい友人たちとの宴で、できるだけ楽しく呑もうと、先人たちは酒器にまでいろんな工夫を凝らした。   なかでも、これはウケること間違いなしの太鼓判は『うぐいす徳利』だ。鳴き徳利ともいわれる酒器で、代表的なデザインは六角柱の徳利の上に愛らしい小鳥が一羽とまっているというもの。これに酒を入れて杯に注ぐと、不思議不思議、小鳥が♪ピヨピヨッ・ピュー♪とさえずるのである。   音が出るしくみは、水笛の原理の応用だ。『うぐいす徳利』の内部は縦に二分割された構造で、底部で連結されている。だから酒を注ぐ際には水位の変化が生じ、それに応じて空気が出入りし、小鳥の形をした笛を鳴らすのだ。『うぐいす杯』というのもあって、こっちは飲み口に笛がついていて吸うと音が鳴るのである。   誰が考え出したのか、いつの頃からあるのか。酒が庶民に広く親しまれるようになったのは江戸時代で、その頃から陶磁器製の酒器が作られるようになり、遊び心のあるさまざまな形やデザインの酒器が誕生した。そのなかのひとつであろうと考えられているが、実際にこの『うぐいす徳利』が流行したのは明治から昭和にかけてであった。     コレクターの方のサイトを見せていただくと、萩焼や清水焼、九谷焼のアンティークな『うぐいす徳利』が紹介されていた。いずれもカタチはほぼ同じだが、全面に花が描かれたものや金や赤を使ったド派手なのもあった。動画の中に登場する『うぐいす徳利』は菊水が販売しているもので美濃焼。市松模様のものはオリジナルで、古来より好まれてきた市松模様を藍色のグラデーションで表現し、酒の器を表す象形文字「酉」がさりげなくあしらわれている。伝統的でありながらモダンなデザインだ。     梅の木が描かれた2点は既製品。ウグイスは春告鳥とも呼ばれ、"梅にウグイス"といえば、春の象徴であり、日本の雅な美しさの象徴だろう。梅とウグイスをセットで詠むことは古くから人気だったらしく、万葉集にも古今和歌集にもたくさん収められている。春を待ち焦がれる気持ち、待ちに待った春を愛でる心の表現に、"梅にウグイス"は最適なペアリングなのだ。   しかし実際には、梅の木にウグイスがやって来ることはあまりないという。梅花の蜜を吸いに来るのはメジロで、しかもこのメジロの方が私たちがイメージするウグイス色をしているからややこしい。本当のウグイス色はうぐいす餡のような緑ではなく、もっと茶色っぽい。そしてウグイスが♪ホーホケキョ♪とさえずるのは雑木林の藪の中だ。   ウグイスが美声を聴かせてくれるのは、春から夏にかけて。上手に♪ホーホケキョ♪と鳴けなくて、♪ホーホケッ♪みたいなのを繰り返しているのを聞いたことがあるが、それがちょうど梅の花の頃だ。若いウグイスがまだ上手く鳴くことができず、もうすぐやって来る繁殖期に美声で雌を惹きつけるための練習をしているのである。   さてさて『うぐいす徳利』は♪ホーホケキョ♪とは鳴かないけれど、♪ピヨピヨッ・ピュー♪はそれなりに愛らしい。1点1点微妙に鳴き方も異なるので、聴き比べをするのも一興。江戸では小鳥を飼うことが流行していて、手飼いのウグイスを持ち寄って、その声の優劣を競う『うぐいす合わせ』なる遊戯もあったというから。一杯やりながら遊戯に興じる姿が目に浮かぶようだ。   それにしても『うぐいす徳利』、なぜ六角柱なのか考えてみた。至った答えは、丸っこい徳利型よりもこの方がアウトドアへ持ち出しやすいということ。何本かを箱なり籠なりに収めたとき、六角形なら隣同士がぴったりくっついて収まりがいいし、倒れにくく、運びやすいだろう。梅や桜の時期に限ったことではなく、藤だろうが新緑だろうが、紅葉だっていい。美しい日本の自然を肴に、♪ピヨピヨッ・ピュー♪って、やってたんだろうな、昔の人は。さぞや愉しかろ。   ウイットに満ちた楽しい『うぐいす徳利』だが、最後にひとつだけ、知っておいた方がいいことがある。それは、 宴が終わって、徳利を洗ってるときにもピヨピヨ鳴いちゃうってこと。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所   菊水 オリジナル うぐいす徳利はこちら https://item.rakuten.co.jp/kikusui/21860/

2020年05月22日

「水入らず」「水くさい」の語源は 日本酒にあるって?!

「水入らず」とは、内輪の親しい間柄の者だけで、他人を交えないこと。たとえば、子どもが独立したので、夫婦水入らずで暮らしている。とか、たまには家族水入らずで旅行でもしたいね。などというふうに使われている。 「水くさい」は、親しい間柄なのに、よそよそしい、他人行儀だという意味。たとえば、同じ釜の飯を食った仲なのに水くさいこと言うなよ。ひとりで悩んで相談してくれないなんて水くさいじゃないか。というふうに使っている。   しかし「水入らず」も「水くさい」も、日本酒の飲み方から生まれた言葉だという説があることには驚いた。   日本酒らしい飲み方、『献酬 けんしゅう 』   わが国には昔から酒を酌み交わす風習があり、そうすることで人と人との交流を深めてきた。酒席に居合わせた者同士が杯を差しつ差されつするのは、ワインやウイスキーなどにはない日本酒らしい飲み方だ。このような飲み方を『献酬(けんしゅう)』という。   まず目下の者が目上の方に杯を捧げ、酒を注ぐのが礼儀作法で、これが元々の意味の『献杯』。逆に下の者が上の方から酒を注いでもらう際は、「お流れ頂戴いたします」と言葉にしていただき、飲み干したあとには返杯する。   酒を注ぐとき、右利きの人は自然に右手で徳利を持つだろう。では酒を受けるときはどうなるか? これは二人の位置関係にもよって変わってくるようで、献杯やお流れ頂戴と向かい合っているときは、右手で杯を持った方が相手も注ぎやすそうだ。   しかし横並びのときは、下手をすると窮屈な格好になって、お互いが注ぎにくく受けにくくなってしまう。そこで、スマートに見える酌のコツというようなものがあって、それはつまり、お互いに外側の手で徳利や杯を持てばいいのだということ。二人の外側を大きく回って、真ん中で酌をすればカッコイイ。   二人が差し向かいで酒を飲むとき、今ではひとりずつ自分の杯があるのが普通だが、献杯やお流れ頂戴ではひとつの杯でやりとりをした。ひとつの杯で酒を酌み交わすことによって心を通わすという考えだ。だけどいくらなんでも、自分の唇が触れた杯をそのまま相手に渡すのは失礼にあたると思われたのか、杯をすすぐ道具が生まれた。     江戸末期の『寛至天見聞随筆』という書物に「杯あらひの丼に水を入れ〜」とあり、もともとは大きな鉢や丼を使ったのだろう。当時は『杯スマシの丼(どんぶり)』と呼ばれた。その後、酒席により映えるように染付や色絵の磁器や漆器などの専用道具へと変わり、明治以降は『杯洗(はいせん)』と呼ばれるようになった。   どんなふうに使うのか、動画を観てみよう。 [video width="640" height="480" mp4="https://kikusui-tsushin.com/wp/wp-content/uploads/2020/05/9310088968e12546f2aa6515c59283b1.mp4"][/video]   そして、この杯を洗う行為が「水入らず」「水くさい」と関係している。 もうわかっちゃいましたよね。 そう、二人の仲なんだから杯を洗わなくていいよ=水入らず、杯を洗うなんて水くさいじゃないかという意味だったのだ。   ネット検索してみても、現在、杯洗を作っている窯元はほとんどなく、その存在は日本酒の文化や歴史に関心のある方にしか知られていないが、こういった作法があったことは大事に伝えていきたいと思う。そして、杯は人の数だけ用いるようになっても、差しつ差されつのコミュニケーションは守っていかなければ。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所