北越後だより

2020年10月30日

熱燗だけが燗酒じゃない。上手に燗をつけて風流を楽しもう

日本酒は、幅広い温度帯で飲まれる、世界でも珍しい酒だ。冷え冷えの5℃あたりから熱々の60℃近くまで、いろんな味わいを楽しむことができる。日ごとに秋が深まり、朝晩がちょっと肌寒く感じられるようになると、やはり温かい酒が恋しい。年中冷やした酒を飲む人が増えているが、昔は、旧暦九月九日(新暦10月25日)の重陽の節句を過ぎると、酒は温めて飲むものとされていたようだ。   日本酒を温めることを「燗をつける」あるいは「お燗する」という。温められた日本酒は『燗酒』だ。とあるチェーン店の居酒屋で、ドリンクメニューに   日本酒 冷または燗   とあったので「燗」を頼んだ。するとアルバイトらしき女の子に「熱燗ですね」といわれ、あまり熱いのは好きじゃないが、この店ではそうなのかと諦めた。   温めた酒=熱燗と思ってる人も多いようだが、そうではない。燗の温度によってそれぞれ美しい表現があり、もちろん香味の感じ方も違ってくる。 一般的に燗酒に向くのは純米酒や本醸造酒で、冷酒に向くのは香りが華やかな吟醸酒や大吟醸酒といわれている。ただしすべての銘柄に共通するのではなく、ぬるめの燗にしておいしい吟醸酒や少し冷やして飲みたい純米酒もある。燗をつけてよりおいしくなったら、それは「燗上がりする酒」。菊水の純米酒なんかがそれだ。ひとつの酒をいろんな温度で飲んでみるのも楽しいだろう。   さて、温度帯による燗酒の表現を知ったはいいが、実際に店で「日向燗」「人肌燗」などと通ぶるのはちょっと恥ずかしい。上燗は「適燗」ともいうので、それを中心に”熱め”がいいか”ぬるめ”がいいかといったところか。 居酒屋チェーン店などでは、一升瓶を逆さに設置してボタンを押すだけで下から燗酒が出てくるような酒燗マシンが使われているのだが、そのような機械でも3つ程度の温度設定ができるようだ。   しかし、由緒正しき燗酒の作り方は、なんといっても湯煎である。店の厨房の片隅に置いた『どうこ』と呼ばれる四角い酒燗器を使う。木製の箱で、内側はステンレスになっていて、電気で湯が沸かせる。もちろん温度調節も可能だ。   秋の、やけに冷える夕べ。ガラガラっと引き戸を開け、カウンターに座るや「1本つけて」と声を掛ける。店主は一升瓶を手に取ると、金属製の『ちろり』という取手つきの器に1合注ぎ入れ、それを『どうこ』の湯に浸ける。そして頃合いを見て引き上げ、温まった酒を徳利に移し換えて出してくれるのだ。 ぬるめ熱めの好みを伝えてもいい。日本酒にこだわりの強い店ならば、主人や女将のオススメの温度で供されるかもしれない。   かつて料亭などには、『お燗番』と呼ばれる酒燗のプロがいたそう。客の好みや酒の特徴、料理などに合わせて、最適な温度を見極めて提供したのだ。 そういえば、近ごろあまり見なくなったが、徳利型の一合瓶があったのをご存じだろうか? 栓が王冠で、酒の液面と王冠の裾に8ミリほどの隙間があった。燗をつけると熱膨張で液面が上昇するのが見えて、隙間が半分になったら『ぬる燗』、なくなったら『熱燗』というふうにバイトの先輩に教わったな…。 家庭で湯煎する場合は、①徳利に九分目まで酒を入れ、注ぎ口にラップをする。②鍋などに徳利の半分まで浸かる水を張って火にかけ、沸騰したら火を止める。③火を止めた鍋に徳利を浸し、酒が徳利の口まで上がってきたらできあがり。湯の量や徳利の素材・厚さなどにより熱の伝導は異なるが、あまり時間をかけるとアルコールが飛んでしまうので、2〜3分で燗するのがコツ。   電子レンジでもできないことはないが、徳利の上部と下部で温度のムラが出やすい。出力500Wの場合、1合(180ml)あたり約60秒で熱燗になるので、30秒くらいで一度取り出して徳利を揺すって酒の温度を均一にしてから再度レンジに入れるといい。     しかし、どうよ。「チン!」とできあがる燗酒と、湯の中から引き上げた徳利の底を布巾で丁寧にぬぐいながら差し出される燗酒。たとえ同じ上燗であっても、やはり呑むほうの気分は違ってくるだろう。美人の女将ならもちろん、朴訥な健さんであっても、人の手で燗をつけてもらうと心まであったまってしまうのだ。   もっと詳しくは、ブック型『菊水通信』へ https://www.kikusui-sake.com/book/vol5/#target/page_no=3   <参考文献・参考サイト> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所 日本酒の科学 著/和田美代子 監修/高橋俊成 発行/講談社 新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者

2019年12月07日

失敗しない、おいしい燗酒の作り方

いろいろな温度で楽しめる日本酒ですが、特に燗酒を好む人も少なくありません。とはいえ、家で燗酒を作ろうとすると、温度の加減が難しかったり、アルコールが飛びすぎてしまったりと、意外とコツがいるもの。ここでは、簡単に実践できる「おいしい燗酒の作り方」をご紹介します。   日本酒の魅力を引き立たせる「燗酒」とは? お酒を温めることを「燗をつける」「お燗する」、温めたお酒のことを「燗酒」と呼びます。また、燗をつけてお酒のおいしさが引き出された状態を「燗上がり」と呼ぶことも。 冷やして飲む冷酒の人気が定着した一方で、近年では「燗」という日本酒ならではの魅力も見直されています。2019年に10周年を迎えた『全国燗酒コンテスト』(http://www.kansake.jp/#aConcept)が、温めておいしい日本酒を選ぶコンテストとして注目されるなど、温めるとうまみが増す燗酒を楽しむ人が増えてきています。   燗の温度によって香りや味わいが変化 「熱燗」や「ぬる燗」という言葉はご存知の方も多いでしょう。燗酒は温度によって呼び方が変わります。 30度くらいで「日向燗」。温度の高さを感じないくらいで、ほんのり香りが引き立つのが特徴です。 35度くらいで「人肌燗」。さわると暖かく、味にふくらみが出て、米や麹の香りがします。 40度くらいで「ぬる燗」。さわっても熱くはなく、よく香りが立ちます。 45度くらいで「上燗」。注いだときに湯気が出て、引き締まった香りを感じます。 50度くらいで「熱燗」。徳利から湯気が生じはじめ、さわると熱く感じるのがこの温度です。キレの良い辛口を感じ、香りがシャープになります。 55度くらいで「飛びきり燗」。徳利を持つと熱く、シャープな香りが際立ってより辛口になります。   自宅で簡単にできる燗酒の作り方 自宅でも少しの工夫でおいしい燗酒を簡単に作ることができます。その方法をご紹介しましょう。 ①お酒を徳利の9分目まで注ぎます。このとき徳利の注ぎ口にラップをすると、お酒のいい香りが飛ばないのでおすすめです。 ②鍋などに水を張って、お酒の入った徳利を浸します。水の量は、徳利の半分ほどの高さまで浸かるようにしましょう。 ③水の量を調整したら、一度徳利を取り出して鍋を火にかけます。水が沸騰したら火を止めます。 ④火を止めた鍋に徳利を浸します。熱い湯で手早く燗をするのがコツ。ぬる燗にしたい場合は時間を調整します。 ⑤お酒が徳利の口まで上がってきたら、徳利を持ち上げます。 ⑥中指を徳利の底に当ててみて、やや熱いと感じるのがちょうどいい燗の目安です。45度くらいの「上燗」がおいしいと言われることが多いですが、自分好みの温度を探しだすのも自宅で燗酒を作る楽しみのひとつです。 電子レンジで燗酒するポイント 急激に温度が上がってしまう電子レンジでも、ひと工夫すると簡単においしく燗酒ができます。500Wの場合で、お酒1合(180ml)を約40秒加熱すると、「人肌燗」程度に温まります。やはり徳利の注ぎ口にはラップで蓋をしましょう。レンジで温めると徳利の上部と下部で温度差ができるので、まず20秒ほど温めて一度取り出し、温度が均一になるよう徳利をすこし振ります。それからレンジに戻して、好みの温度になるまで少しずつ温めるのがおすすめです。 急激に温度が上がってしまう電子レンジでも、ひと工夫すると簡単においしく燗酒ができます。500Wの場合で、お酒1合(180ml)を約40秒加熱すると、「人肌燗」程度に温まります。やはり徳利の注ぎ口にはラップで蓋をしましょう。レンジで温めると徳利の上部と下部で温度差ができるので、まず20秒ほど温めて一度取り出し、温度が均一になるよう徳利をすこし振ります。それからレンジに戻して、好みの温度になるまで少しずつ温めるのがおすすめです。   お酒の温度を変えて楽しむ、料理とのペアリング 温度によって味や香りが変化する日本酒。菊水酒造では、味覚センサーを使って4つの温度帯ごとにコク、うまみ、ボディ感、コクの余韻、うまみの余韻、キレの6つの要素で分析して、料理とのペアリングを考えてみました。分析に使用したのは、菊水イチ燗上がりして、冷酒でもしっかり旨味がある「菊水の純米酒」です。 冷蔵庫から取り出したばかりの日本酒は5℃ほど。キレが際立っていて、繊細な味の料理と合わせても料理の味を邪魔しません。のどぐろやヒラメの刺身、アジのたたき、豆腐田楽のような自然なうまみがあって、さっぱりした食べ物との相性がいいと言えます。   常温の25℃では、キレが程よく感じられますが他の要素のバランスがいいのが特徴です。焼き魚や焼き鳥、鶏肉の唐揚げなど、塩味とうまみが程よく感じられる食べ物と合わせてみてはいかがでしょうか?   ぬる燗の40℃ほどになると、コクと旨味が膨らんでボディ感がぐっとアップします。ブリの照り焼きや豚肉の生姜焼きなど味わいがしっかりしたものとのペアリングがおすすめです。   熱燗として測定したのは、徳利を触るとアチッと感じるほどの60℃。コク、うまみ、ボディ感にさらに膨らみが出ます。すき焼き、モツ煮、豚肉のスペアリブなど、こっくりと濃い味付けの料理との相性がよくなります。  温度によって味や香りが変わる「燗酒」。自分好みの温度で燗をつけて、楽しんでみてはいかがでしょうか?   燗酒の作り方 監修:國府田宏行 協力:味香り戦略研究所   『菊水の純米酒』商品情報 菊水の純米酒 720ml数量: カートに入れる   「料理とのペアリング」についてはこちらでも紹介しています。 ブック版 菊水通信vol.5