北越後だより

2020年07月15日

贈りものを風呂敷に包む。この日本ならではの『包みの文化』を日本酒にも

鎌倉にしてはなだらかな坂道を、そのひとは白い日傘を差して上ってきた。淡い藍鼠色の絽の着物に、アイボリーの帯と淡いピンクの帯締め。午前中だったとはいえ、空には太陽がギラギラしはじめているのに、そのひとだけは別の涼しい空気をまとっているようだった。すれ違う際に、なぜか少し緊張したのを覚えてる。 日傘に隠れた表情はよく見えなかったけれど、折り曲げた左腕に四角い風呂敷包みが乗っかっていた。あれはたぶん、お中元の贈りものだったのだろう。包まれていたのは、そうだな、老舗の菓子舗で求めてきた水菓子だったかもしれないな。毎年、そろそろ梅雨も明けようかという頃になると、ふと”そのひと”のことを思い出すのだ。   お中元の時期は、地域によって少し異なる。北海道では7月中旬から8月15日まで。東北や関東では7月初旬から15日までと短く、7月16日以降は暑中見舞い、残暑見舞いという扱いになる。北陸・甲信越は関東型の地区と北海道型の地区に分かれ、東海・関西・中国・四国では7月中旬から8月15日。九州では8月1日から15日までが一般的だが、沖縄だけは旧暦の7月15日までとなっている。 もともとは先様へ直接持参するものだったのだろうが、現在はもちろん配送することがほとんどだ。さらには特設コーナーへ出向くこともなく、ネットで簡単に品を選ぶことも増えている。もはやコミュニケーションではなく、モノのやりとりに終わってないか。遠方の方に贈る場合はしかたないけど、1時間かからない距離なら持参するのもいいかもしれないな。そう、風呂敷に包んでね。   「包」という字は、母の胎内に子が宿っているさまを表している。包むことは、そこに包まれているものを大切に「いつくしむ」気持ち。母体から生まれ出ると、なるほど、子は「己」となるわけだ。 また「つつしむ」や「つつましい」という言葉は、包むが語源とされている。相手を思って贈答品を選び、相手を敬う心と一緒に風呂敷に包む。日本ならではの『包みの文化』と言えるだろう。   さて、その風呂敷、奈良時代に宝物を包む布として使われたのがはじまり。風呂敷と呼ばれだしたのは室町時代からで、蒸し風呂の板場に敷いたり、全国から集まった大名たちが風呂場で脱いだ衣服を取り違えないように、家紋入りの布に包んだりしたのだとか。そして江戸時代には商人が商品を包んで運び、旅行の際には荷物を包んでカバン代わりにするなど使い方が広がっていった。   風呂敷は反物を裁断して、端を三ツ巻きに縫い上げてある。縫った両端が天地つまり丈で、生地の巾が左右である。じつは正方形ではなく、巾よりも天地が若干長い。サイズは巾という単位で表し、中巾(約45cm)から七巾(約230cm)まで10種類ほど。通常私たちがよく目にするのは、二巾(約68〜70cm)から二四巾(約90cm)だ。   風呂敷を使った包み方はいろいろあるが、鎌倉で見かけた”そのひと”のように菓子折などを包む際の代表的なものは「お使い包み」だろう。   ■お使い包み   四角いものだけでなく、酒などの瓶を包むこともできる。しかも、ぶら下げて持ち運びしやすいように包めるので、手提げ袋がいらなくなるのもうれしい。   ■瓶1本包み 四合瓶なら二巾(68~70cm)、一升瓶なら二四巾(90cm)が最適。     2本だって、いけちゃう。 ■瓶2本包み 四合瓶なら二巾(68~70cm)、一升瓶なら三巾(104cm)が最適。2本の瓶の形が同じか、よく似ているほどきれいに安定して包める。 どうです。日本酒の風呂敷包み、なかなかカッコイイのでは? 中身の入った状態で四合瓶(720ml)1本の重量は約1.2kgほどなので、力のない方でも難なく持てる。ちなみに一升瓶(1800ml)だと重量は約2.8kgあるけれど、持ち手がポリ袋みたいに指に食い込まないので痛くならない。   市場に出まわっている風呂敷の色柄も豊富で、昔ながらのシブイものからモダンなデザインのものまで、よりどりみどり。そこに贈る人のセンスも発揮できるってもんだ。お中元やお歳暮の贈り方としてはじつに風流で粋だし、パーティなどお呼ばれの際にこんなふうに持参したら、かなりインパクトありそう。

2020年06月30日

見られています。アナタの箸の持ち方・使い方

中国唐代の詩人、李白は、酒にまつわる作品を数多く残している。その中に五言古詩『月下独酌』がある。この詩は、花の咲く木々の下で独り酒に興じるが、一緒に酒を酌み交わす相手がいなく、月とその月光に照らされた自分の影、それを擬人化し仲間に見立てて共に戯れ酔いしれる。という風流な詩だ。 一人酒でこんな妄想にふけるのもいいけど、やはり仲間と酒を酌み交わすのはなお楽しいものだ。だけど居酒屋などで、箸の使いかたがおかしな人に出会うと、なんとも気がそぞろになってしまう。   箸の行儀作法には「移り箸」、「込み箸」、「ねぶり箸」、「探り箸」、「迷い箸」、「空箸」、「刺し箸」と様々ある。これは、お互いに箸を交わす、刺身、天ぷらの盛り合わせ、鍋などの場面で相手にいい印象を与えないものだ。   そしてもう一つが箸の持ち方も気になる。テレビ番組の食レポでも、希にタレントさんの箸の持ち方がおかしな人を見かける。世間では箸使いで「その人の育ってきた家庭環境がわかる」とも語られる。 むかし箸の持ち方を矯正した話を、ある食の評論家から聞いたことがある。 彼は三人兄弟の末っ子で、長男が左利きだったので、母が無理やり右利きに矯正したら吃音になってしまった。母はそれを後悔し、長男の苦い経験があることから、彼は矯正されないままに育ったそうだ。 評論家になった後に、自分の箸の持ち方では評論の信憑性に欠けると思われることに気付き、練習をして強制したと語っていた。   彼の場合は食の評論家という立場。下手な箸使いで批判の目にさらされるのは間違いない、だから矯正する機会に恵まれたと言っていいが、一般の人々はそのまま、というのが多数だろう。   しかし箸文化の日本において、これは最低限の行儀作法。箸をまともに使えないと人格まで疑われる可能性すらある。 和食の職人は丁稚の頃、箸が使えなければ親方に叱られる。そして矯正される。箸がきちんと使えないと和食では致命的で、特に飾りつけができない。なによりも和食店の多くはオープンキッチンなので、客の目の前で箸を使う場面があるからだ。   いずれにしても箸を美しく操る人と一緒にすごす酒宴は、不思議に気持ちがいいものだ。 「箸の作法がなってない人を見たくない」という人もいるだろう。ならば李白の『月下独酌』よろしく、一人酒を楽しめばいい。   では、ここでやってほしくない箸の作法を少し紹介しよう。 あなたの箸さばき、持ち方はいかがなものか。酒宴の席できっと誰かに見られているはず。   『移り箸』 「菜移り」ともいい、一つの肴に箸を付け、続いて別の肴に箸を付けること。これは、先に食べた肴を味わっていない証拠で、亭主にも料理人にも失礼。一つ肴をいただいたら、一口酒を飲み、じっくり味わってから別の肴をいただくこと。   『込み箸』 口に運んだ肴が大き目のとき、箸の先で口の中に押し込むなど、みにくい食べ方。   『舐(ねぶ)り箸』 箸についてしまった物を舐めて取ったり、箸の先を口に入れて取ったりすることで、見た目にも汚い食べ方。   『探(さぐ)り箸』 汁の中の身を箸の先で探すことを言うが、ついやりがちなので気を付けたいもの。   『迷い箸』 どれを食べようかと、器の上で箸をあちこち移すことで、これもお行儀の悪い食べ方のひとつ。   『空箸』 肴をはさみかけて途中でやめることで、最も行儀がわるい行為。   『刺し箸』 いも類などを箸で刺して食べること。男性はやりがち。すべってはさみにくかったら、箸で半分に切ってみよう。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

2020年06月30日

仕込み水によって性別が分かれる? 男酒・女酒

昔から「名水あるところに銘酒あり」といわれている。そりゃそうだ、日本酒の成分のアルコールや糖分、アミノ酸は20%ほどで、あとの80%以上は水なんだから、その水が酒の質に影響しないわけがない。米と米麹だけでなく、水も重要な原料である。どんな水を使うかで、酒の味わいも違ってくるのだ。   また製造工程でも大量の水を使用し、一升の酒を造るには八升の水が必要と言われるほどだ。だから蔵元には水に対する強い思いがあり、いい水がふんだんに得られる場所に蔵は建てられてきた。 ちなみにビールやウイスキーのメーカーにとっても水は大事。ウイスキーの世界では “Mother Water” なる言葉もある。日本酒も然りである。しかし日本酒と同じ醸造酒でありながらワインはそうではない。ワインは水を加えずブドウだけを原料に仕込むからだ。     菊水の蔵があるのは、新潟県新発田市の越後平野のなか。加治川が大地を潤し、周辺には豊富な地下水脈が流れている。これらの川や水脈は、新潟と山形両県の県境をなす飯豊連峰の御西岳、北股岳を水源とし、春まだ白い山々の雪解け水が深く地中に染み込み、長いときを経て清冽な湧き水となったものである。   名水百選などに選ばれている水ではないが、この水あっての菊水であり、この水と新潟の米と新発田の風土が揃って、菊水の味わいは生まれくる。そんなふうな水と酒質の関わり合いを代表するものに、兵庫は「灘」の酒と京都の「伏見」の酒がある。「灘の男酒」「伏見の女酒」なんていう表現をお聞きになったことがないだろうか。   灘の酒造メーカーが使うのは、「宮水」と呼ばれる水。宮水とは西宮の水の略で、灘は神戸市灘区、西宮は西宮市だ。JRの駅でみた距地では12.8km離れている。しかし酒造メーカーは、それぞれがこの地に井戸を有していて、タンクローリーや地下のパイプラインを使って酒蔵まで水を運んでいるという。それほどまでにこだわる宮水とは?   江戸時代、灘の酒は夏を越すと味が落ちたのに、西宮の酒は逆に味が冴えて人気があった。両地に蔵を持っていた山邑佐太衛門さんは、同じ米を使ったり、杜氏を交替させたりしたが、結果は同じ。そこで仕込み水の違いに気づき、西宮の蔵で使っていた水を船で運び、灘の蔵で醸造したところ、同じ酒質になったのだとか。   宮水に際立つ特徴は、その高い硬度にある。水の硬度は含まれるカルシウムとマグネシウムの量から産出され、WHO(世界保健機関)の定義では次のようになる。 ・硬度60mg/L未満………軟水 ・硬度61〜120mg/L………中硬水 ・硬度121〜180mg/L………硬水 ・硬度181mg/L以上………超硬水 そして宮水は180mg/L程度の硬水なのだ。   酒造に適した水の条件は、酵母の増殖に欠かせないカルシウム、カリウムやリンなどのミネラルが豊富に含まれ、酒の風味や色を損ねる鉄分が少ないこと。宮水では、そのミネラル成分によって発酵が促進され、腰のしっかりした辛口の酒に仕上がる。これが灘の男酒といわれるゆえんである。   一方、伏見はかつて「伏水」と記され、昔から良質の地下水に恵まれていた。伏見の女酒を生み出すのは京の名水「伏水」。氏神である御香宮神社には御香水と呼ばれる水が湧き出ており、名水百選の第1号なのだが、この水と同じ水脈なのである。   水質は鉄分が至極少ない中硬水で、その硬度は60〜80mg/Lだ。硬水に比べると時間をかけて発酵が進むため、酸が少なく、なめらかなキメの細かい風味に仕上がるのが特徴。灘の男酒に対して伏見の女酒と、まるで両端のようにおもしろく対比されてしまっているが、軟水を使っているわけではないし、ましてや酒が甘口というわけでもない。   実際のところ、酒造技術の発達した現在では軟水〜硬水までどのような硬度の水を用いても発酵をコントロールできるようになっている。そして酒の香りや辛口・甘口といった味わいも、ニーズに応じて多彩な酒質を造り分けることが可能だ。   さて、新潟の蔵元が酒造に使う地下水は、多くのところで硬度15〜20mg/Lという超軟水である。ミネラル分が少なく、かつては酒造りに向かないとされた時期もあったのだが、今や誰もが認める酒どころ。知恵を絞り、技を磨くことで、新潟の水のよさを引き出せるようになり、新潟の酒の魅力である淡麗辛口の味わいを実現したのだ。   余談だが、軟水はまろやかで無味無臭に近く、飲み水としておいしい。国産のミネラルウォーターのほとんどが軟水であることからも、それがわかる。また料理にも最適で、素材の風味を活かした繊細な味付けの和食には、やはり軟水でなければならない。   <参考文献> 坂口謹一郎酒学集成1 著/坂口謹一郎 発行/岩波書店 マザー・ウォーター[酒と水の話]  編/酒文化研究所 発行/紀伊国屋書店 日本酒の科学 著/和田美代子 監修/高橋俊成 発行/講談社    

2020年06月23日

「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」の違いをスッキリ!

日本酒のラベルやパッケージには、銘柄とは別に「本醸造」「純米」「吟醸」といった表記がある。居酒屋の壁に貼られた日本酒のメニューを見ても、酒の名前のあとに(純米・新潟)などと表記されていることが多い。都道府県が産地なのはわかるけど、その前のワードは何を意味するのか? それぞれどう違うのか? そのへんを今回はスッキリさせようと思う。   日本酒の第一の定義は「米・米麹・水を原料として発酵させて、濾したもので、アルコール分が22度未満のもの」とされている。第二第三の定義もあって、そこには少しなら混ぜていいものが記されているのだが、その代表的なのが「醸造アルコール」。これを添加しているかいないかが、大きな分類となる。   純米酒は、もちろん米だけで造られていて、醸造アルコールは添加されていない。本醸造酒には、醸造アルコールが添加されている。な-んて書き方をすると、純米酒の方が偉いみたいに勘違いする人が出てきそうだけど、決して優劣を表しているのではない。原料や製造方法の違いが消費者にわかるように名づけられたわけで、(その割にはわかりにくいんだけど)、これらを『特定名称酒』という。   『特定名称酒』には「本醸造酒」「純米酒」「吟醸酒」を含め全部で8種類のタイプがあり、国税庁による『清酒の製法品質表示基準』で決められている。特定名称酒に属さないものもあって、これは通称「普通酒」。通称というのは、つまり表示すべき事柄がないため、ラベルやパッケージに表記されてないということだ。   さて、ここからは本題の特定名称酒の話。特定名称酒の条件は「3等以上に格付けされた米を原料に使っていること」と「麹米の使用割合が15%以上であること」だ。大きく2つに分けると、先ほど書いた純米か否かである。純米タイプには「純米酒」「特別純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」の4種があり、そうでないタイプには「本醸造酒」「特別本醸造酒」「吟醸酒」「大吟醸酒」の4種がある。比べてみよう。       本醸造酒や吟醸酒に添加する醸造アルコールとは、トウモロコシなどを原料に製造された蒸留酒で、白米重量の10%以下に制限されている。添加することでフルーティな香りを引き出しやすく、スッキリとした味わいに仕上がっているのが特長。   吟醸酒は、上表からもわかるように「精米歩合」が低い。原料米を60〜50%まで精米して仕込んでいて、吟醸香と呼ばれるフルーティで華やかな香りが特長だ。60%以下で吟醸酒、50%以下で大吟醸酒。なかには30%台まで磨いている大吟醸酒も存在する。   純米酒は、醸造アルコールが添加されておらず、米本来の甘い香りやふくよかな旨味が味わえるのが特長。そのなかにも純米でありながら吟醸タイプ、大吟醸タイプがある。   アタマに「特別」とつくものは、特定名称酒のなかでも特別ややこしい。本醸造酒には精米歩合70%以下という規定があるが、たとえば60%以下に磨いて造った場合には特別本醸造酒と名乗ってもいい。純米酒には精米歩合の規定がないため、純米吟醸酒ほどではないが、よく精米した場合に特別純米酒となる。   特別扱いはほかにもあり、何か特別な醸造方法を採用して認められた場合も「特別」を名乗ってよいとされている。たとえば、特別な米。希少な米をわざわざ栽培して酒を造ったら、もちろん「特別」だ。しかし何を持って特別とするかの明確な基準はないので、ちょっと不思議なタイプではある。   日本酒の蔵元は日本全国に広がっている。その数も多く、それぞれの蔵元が個性あふれる日本酒を造っているわけだが、強いていえば、特定名称酒には味わいの傾向というものがあるように思う。だから本醸造なら本醸造、純米なら純米、吟醸なら吟醸、普通酒なら普通酒というふうに、同じタイプの酒を飲み比べると蔵元の個性がよくわかるのだ。      

2020年06月05日

庭匠 田中泰阿弥が手掛けた『菊水庭園』

菊水が蔵を構える新発田市は、越後平野(新潟平野)の北部に位置し、中世にはこの地を流れる新発田川の流域にその水運を生かして城が築かれました。 江戸時代には十万石の城下町として栄え、武家町・町人町・寺町などの特徴的な町が形成されました。現在も城下町当時の区割りや道、歴史的建造物など、かつての姿をまちの随所に見ることができます。 ご紹介したいのは「清水園」、近江八景を取り入れた回遊式庭園です。中央には草書体の「水」の字をかたどった池が配置されており、池の周囲には五つの茶室が点在しています。その凛とした美しい佇まいと歴史的観点より2003年に国の名勝に指定されました。 清水園は江戸時代に幕府茶道方の縣宗知の指南により築造されましたが、昭和20年代に荒廃した同園を田中泰阿弥が修復しました。 田中泰阿弥は銀閣寺の清泉の石組の発掘復元をはじめ全国各地の寺院や名園を手掛け、孤高の庭匠と呼ばれた人物です。 池泉と一体になり景観に溶け込む5つの茶室を建立、京都から運んだ石を配し、古い記録と聞き込みに基づいて丹念に修復した結果、他に比をみない名園となりました。現在高い評価を得ている清水園の作庭は、そのほとんどが田中泰阿弥の再生作業の賜物と言えるでしょう。城下町新発田ならではの歴史ある庭園、新発田の誇りです。 旧新発田藩下屋敷庭園 清水園 http://hoppou-bunka.com/shimizuen/ennai.html   さて。菊水では平成最後の秋に敷地内庭園の一般公開をはじめました。 菊水酒造の創業家・高澤家の邸宅庭園として1969年に造られたもので、実は前述の清水園を手掛けた田中泰阿弥氏の手による庭なのです。 [caption id="attachment_537" align="aligncenter" width="640"]   造園当時の様子。右奥が庭匠 田中泰阿弥[/caption]   こちらは、水を用いずに石の組み合わせや地形の高低などによって山水の景色を表現する枯山水庭園ですが、庭全体では池泉回遊式庭園の形式であり、中央に枯山水の手法で表現された池が配置されて、言うなれば池泉回遊式と枯山水が絶妙に組み合わされた風情ある庭園です。 田中泰阿弥の作庭では枯山水は珍しいのだそうです。菊水酒造には、1966,7年に続けて大水害に見舞われ現在の地に移転を余儀なくされた苦難の歴史があり、もしかしたらその悲劇を知る田中泰阿弥氏は蔵元への配慮から水を用いない枯山水を取り入れたのかもしれません。 [caption id="attachment_539" align="aligncenter" width="640"] 大小の石を組み合わせて水の流れを表現[/caption]   石は菊水の近くを流れる加治川など各地を歩きまわった中で、この庭に合うものを集めてきたそうで、中央奥の石組は滝を、そこからの流れは加治川をイメージしているようです。 また、田中泰阿弥氏の庭園は苔が美しいことで有名ですが、高澤家の庭園も枯池の周辺に杉苔が張り巡らされ、瑞々しい緑色が広い庭を覆っています。 完成から今年でちょうど50年。木々は大きく成長し春から夏は鮮やかな緑が、秋には真っ赤に染まった紅葉が庭を彩ります。そして冬は雪景色と四季折々の楽しみ方があります。 飛び石に沿って歩き木々を愛でながらぐるり一周、風景に癒されるもよし、静かに枯山水を眺め精神世界や作り手の心象風景に思いを馳せるもよし。 現在は、蔵見学を中止しているため庭園の公開も中止していますが、再開した折には、ぜひ日本庭園の奥深さを体験しにいらしてください。 [caption id="attachment_540" align="aligncenter" width="640"] 菊水庭園[/caption]   菊水酒造蔵見学のご案内 https://www.kikusui-sake.com/home/jp/labo/

2020年06月03日

「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」の違いをスッキリ!

「生」といえば、みなさん、生ビールを一番に思い浮かべられるだろうが、いやいや「生」はビールだけじゃない。日本酒にも「生」のつく酒がある。しかも「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」と3種類も! これらは「生」のつかない日本酒とどこが違うのか、そしてこれら3つはどう違うのか、そこらへんのところをスッキリさせようと思う。   日本酒が、麹菌や酵母といった微生物の働きによって造られるのはご存じのとおり。そして、良い味を生み出すのも、味を崩してしまうのもまた微生物に起因する。たとえば、搾ったあとのお酒の味を変える要因になるのは、麹が生産した酵素。これを防ぐために、通常の製造工程では上槽後(搾ったあと)に「火入れ」と呼ぶ加熱処理が行われる。熱を加えて酵素を失活させて、味わいを保つわけだ。   また火入れには殺菌の目的もある。一般的な日本酒のアルコール度数は15度程度あるので、たいていの菌は生きていられないのだが、「火落菌(ひおちきん)」と呼ばれる乳酸菌はアルコールに強い。酒のなかでどんどん増殖しちゃう。ホントに厄介なヤツで、コイツに汚染されると酒の温度が上昇して白濁し、酸っぱい異臭を放つようになってしまう。いわゆる腐造である。だから火入れは、貯蔵中の腐造を防ぐためでもあるのだ。   「火入れ」の字面からは、相当な高温を想像してしまうだろうが、60℃程度の低温で火落菌はやっつけられる。方法としては、熱湯を通した管や熱交換式のプレートヒーターに間接的に酒を触れさせたり、瓶に詰めてから湯煎殺菌されたり。あまり熱いとアルコールが飛んでしまうので、温度は60〜65℃。また高温のままでは日本酒の香りが損なわれるため、火入れ後は速やかに冷却しなければならない。     通常、日本酒は2回の火入れが行われる。1回目は醪を搾ったあとタンクに貯蔵する前。2回目は出荷にそなえてビンや容器に詰める前。そして、この2回の火入れをまったく行わず、生の状態で出荷される日本酒のことを「生酒」と呼ぶ。火入れの有無や回数、タイミングによって名称の違いは次のように異なる。 <生酒> まったく火入れを行っていない日本酒。加熱処理をせずそのままの状態で出荷されるため、フレッシュな若々しい味わいが楽しめるが、とてもデリケートな酒なので、製造にも輸送にも高度な品質管理が求められる。本生、生々と呼ばれることも。購入後は冷蔵庫保存し、開栓後はなる早で飲み切りたい。   <生貯蔵酒> 生のまま貯蔵し、出荷前に一度火入れを行った日本酒。生酒のようなフレッシュな味わいとまろやかな旨味が楽しる。生酒ほど徹底した品質管理は必要ないが、通常の日本酒と比べると味わいが変化しやすいので、購入後はできるだけ冷蔵庫で保管が好ましい。   <生詰酒> 貯蔵前に一度火入れを行い、出荷前には火入れを行っていない日本酒。生酒や生貯蔵酒に比べ酸味に落ち着きがあり、貯蔵熟成による熟れた果実のような甘い香りとジューシーな旨味がそのまま詰まっている。 秋に店頭に並ぶ「ひやおろし」は、冬から春に造った酒に一度火入れし、夏の間熟成させ、火入れを行わずに出荷されるもので、生詰酒の一種。冷や(生)のまま、卸す(出荷する)という意味で「ひやおろし」と呼ばれる。       「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」の違い、いかがでしたか? 菊水の「ふなぐち」は生酒のなかの「生原酒」といい、上槽後に一度も火入れをしていないだけでなく、水を加えてのアルコール調整もしていない、本当の搾ったまんま。かつては蔵でしか飲めなかったデリケートな酒だが、高度な濾過技術やアルミ缶採用により常温での流通を可能にしている。   『ふなぐち菊水一番しぼり』商品情報 https://www.kikusui-sake.com/funaguchi/index.html

2020年05月26日

酒を注ぐたびに小鳥がさえずる酒器が楽しい

酒は楽しく呑んだ方が絶対うまい!世の理不尽を愚痴りながら呑んだって、な〜んにも気持ちよくないし、そもそも酒というのは、ハレの日を祝うものであったのだから、パッといきたいものである。客を招いて酒席を設ける、あるいは親しい友人たちとの宴で、できるだけ楽しく呑もうと、先人たちは酒器にまでいろんな工夫を凝らした。   なかでも、これはウケること間違いなしの太鼓判は『うぐいす徳利』だ。鳴き徳利ともいわれる酒器で、代表的なデザインは六角柱の徳利の上に愛らしい小鳥が一羽とまっているというもの。これに酒を入れて杯に注ぐと、不思議不思議、小鳥が♪ピヨピヨッ・ピュー♪とさえずるのである。   音が出るしくみは、水笛の原理の応用だ。『うぐいす徳利』の内部は縦に二分割された構造で、底部で連結されている。だから酒を注ぐ際には水位の変化が生じ、それに応じて空気が出入りし、小鳥の形をした笛を鳴らすのだ。『うぐいす杯』というのもあって、こっちは飲み口に笛がついていて吸うと音が鳴るのである。   誰が考え出したのか、いつの頃からあるのか。酒が庶民に広く親しまれるようになったのは江戸時代で、その頃から陶磁器製の酒器が作られるようになり、遊び心のあるさまざまな形やデザインの酒器が誕生した。そのなかのひとつであろうと考えられているが、実際にこの『うぐいす徳利』が流行したのは明治から昭和にかけてであった。     コレクターの方のサイトを見せていただくと、萩焼や清水焼、九谷焼のアンティークな『うぐいす徳利』が紹介されていた。いずれもカタチはほぼ同じだが、全面に花が描かれたものや金や赤を使ったド派手なのもあった。動画の中に登場する『うぐいす徳利』は菊水が販売しているもので美濃焼。市松模様のものはオリジナルで、古来より好まれてきた市松模様を藍色のグラデーションで表現し、酒の器を表す象形文字「酉」がさりげなくあしらわれている。伝統的でありながらモダンなデザインだ。     梅の木が描かれた2点は既製品。ウグイスは春告鳥とも呼ばれ、"梅にウグイス"といえば、春の象徴であり、日本の雅な美しさの象徴だろう。梅とウグイスをセットで詠むことは古くから人気だったらしく、万葉集にも古今和歌集にもたくさん収められている。春を待ち焦がれる気持ち、待ちに待った春を愛でる心の表現に、"梅にウグイス"は最適なペアリングなのだ。   しかし実際には、梅の木にウグイスがやって来ることはあまりないという。梅花の蜜を吸いに来るのはメジロで、しかもこのメジロの方が私たちがイメージするウグイス色をしているからややこしい。本当のウグイス色はうぐいす餡のような緑ではなく、もっと茶色っぽい。そしてウグイスが♪ホーホケキョ♪とさえずるのは雑木林の藪の中だ。   ウグイスが美声を聴かせてくれるのは、春から夏にかけて。上手に♪ホーホケキョ♪と鳴けなくて、♪ホーホケッ♪みたいなのを繰り返しているのを聞いたことがあるが、それがちょうど梅の花の頃だ。若いウグイスがまだ上手く鳴くことができず、もうすぐやって来る繁殖期に美声で雌を惹きつけるための練習をしているのである。   さてさて『うぐいす徳利』は♪ホーホケキョ♪とは鳴かないけれど、♪ピヨピヨッ・ピュー♪はそれなりに愛らしい。1点1点微妙に鳴き方も異なるので、聴き比べをするのも一興。江戸では小鳥を飼うことが流行していて、手飼いのウグイスを持ち寄って、その声の優劣を競う『うぐいす合わせ』なる遊戯もあったというから。一杯やりながら遊戯に興じる姿が目に浮かぶようだ。   それにしても『うぐいす徳利』、なぜ六角柱なのか考えてみた。至った答えは、丸っこい徳利型よりもこの方がアウトドアへ持ち出しやすいということ。何本かを箱なり籠なりに収めたとき、六角形なら隣同士がぴったりくっついて収まりがいいし、倒れにくく、運びやすいだろう。梅や桜の時期に限ったことではなく、藤だろうが新緑だろうが、紅葉だっていい。美しい日本の自然を肴に、♪ピヨピヨッ・ピュー♪って、やってたんだろうな、昔の人は。さぞや愉しかろ。   ウイットに満ちた楽しい『うぐいす徳利』だが、最後にひとつだけ、知っておいた方がいいことがある。それは、 宴が終わって、徳利を洗ってるときにもピヨピヨ鳴いちゃうってこと。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所   菊水 オリジナル うぐいす徳利はこちら https://item.rakuten.co.jp/kikusui/21860/

2020年05月22日

「水入らず」「水くさい」の語源は 日本酒にあるって?!

「水入らず」とは、内輪の親しい間柄の者だけで、他人を交えないこと。たとえば、子どもが独立したので、夫婦水入らずで暮らしている。とか、たまには家族水入らずで旅行でもしたいね。などというふうに使われている。 「水くさい」は、親しい間柄なのに、よそよそしい、他人行儀だという意味。たとえば、同じ釜の飯を食った仲なのに水くさいこと言うなよ。ひとりで悩んで相談してくれないなんて水くさいじゃないか。というふうに使っている。   しかし「水入らず」も「水くさい」も、日本酒の飲み方から生まれた言葉だという説があることには驚いた。   日本酒らしい飲み方、『献酬 けんしゅう 』   わが国には昔から酒を酌み交わす風習があり、そうすることで人と人との交流を深めてきた。酒席に居合わせた者同士が杯を差しつ差されつするのは、ワインやウイスキーなどにはない日本酒らしい飲み方だ。このような飲み方を『献酬(けんしゅう)』という。   まず目下の者が目上の方に杯を捧げ、酒を注ぐのが礼儀作法で、これが元々の意味の『献杯』。逆に下の者が上の方から酒を注いでもらう際は、「お流れ頂戴いたします」と言葉にしていただき、飲み干したあとには返杯する。   酒を注ぐとき、右利きの人は自然に右手で徳利を持つだろう。では酒を受けるときはどうなるか? これは二人の位置関係にもよって変わってくるようで、献杯やお流れ頂戴と向かい合っているときは、右手で杯を持った方が相手も注ぎやすそうだ。   しかし横並びのときは、下手をすると窮屈な格好になって、お互いが注ぎにくく受けにくくなってしまう。そこで、スマートに見える酌のコツというようなものがあって、それはつまり、お互いに外側の手で徳利や杯を持てばいいのだということ。二人の外側を大きく回って、真ん中で酌をすればカッコイイ。   二人が差し向かいで酒を飲むとき、今ではひとりずつ自分の杯があるのが普通だが、献杯やお流れ頂戴ではひとつの杯でやりとりをした。ひとつの杯で酒を酌み交わすことによって心を通わすという考えだ。だけどいくらなんでも、自分の唇が触れた杯をそのまま相手に渡すのは失礼にあたると思われたのか、杯をすすぐ道具が生まれた。     江戸末期の『寛至天見聞随筆』という書物に「杯あらひの丼に水を入れ〜」とあり、もともとは大きな鉢や丼を使ったのだろう。当時は『杯スマシの丼(どんぶり)』と呼ばれた。その後、酒席により映えるように染付や色絵の磁器や漆器などの専用道具へと変わり、明治以降は『杯洗(はいせん)』と呼ばれるようになった。   どんなふうに使うのか、動画を観てみよう。 [video width="640" height="480" mp4="https://kikusui-tsushin.com/wp/wp-content/uploads/2020/05/9310088968e12546f2aa6515c59283b1.mp4"][/video]   そして、この杯を洗う行為が「水入らず」「水くさい」と関係している。 もうわかっちゃいましたよね。 そう、二人の仲なんだから杯を洗わなくていいよ=水入らず、杯を洗うなんて水くさいじゃないかという意味だったのだ。   ネット検索してみても、現在、杯洗を作っている窯元はほとんどなく、その存在は日本酒の文化や歴史に関心のある方にしか知られていないが、こういった作法があったことは大事に伝えていきたいと思う。そして、杯は人の数だけ用いるようになっても、差しつ差されつのコミュニケーションは守っていかなければ。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

2020年05月07日

北越後・新発田も田植えの季節

ここ、北越後新発田では田植えの時期を迎えようとしています。   北越後の大地の恵みを醸す意味 私たちは、米の産地の特徴つまり“テロワール”に加え、蔵人の技術や蔵元の考えがあいまって日本酒の“個性”が形成されると考えていますから、我々の社名と同じ名を持つこの酒米「菊水」の小さな苗を、手作業により植え、秋の収穫の時期まで稲の成長を見守り、そして秋に収穫した米で酒を醸すことは一続きです。   わずか25粒の種籾から復活した酒米菊水 酒米菊水は1937年に愛知県にて誕生しました。酒の原料米として大変優れた性質を持ちながら、戦中の食糧難により姿を消した品種です。1997年にわずか25粒の種籾から、新潟の専門農家グループ「㈲共生の大地にいがた21」の手により復活させることに成功しました。私たちはこの米で酒を醸すことに意気込みを感じ、2000年冬より『酒米菊水 純米大吟醸』を醸造しています。   手作業の田植えに込めた思い 菊水の酒造りという仕事は良い自然環境があってこそできるものです。その良い自然環境を皆さんに実際に体感していただくため、昔ながらの作業方法での田植えや稲刈りの作業を通じて田んぼの感触などを身体で感じてもらうことに大きな意味があると考えています。 過去の田植えイベントの様子 例年は「酒米菊水」の田植えを社員と協力農家の方々、そして近隣地域の皆さんと一緒に行っています。現在では様々な情報が世の中にあふれていますが、そんな中でも五感をフルに使って聞いたり見たり、触れたりする実体験を通じて自然環境を意識し、一緒に新発田の自然の恵みから菊水の酒が生まれていることを実感し、より一層の美味しさを知っていただきたいと思うのです。   令和2年の田植え 5月2日快晴の青空の早朝、菊水の蔵人が数名の姿が新発田の田んぼにありました。 今年は大勢の方とともに田植え作業で汗を流すことはできませんでしたが、北越後の自然の恵みに感謝し、地域の方々と一緒に分かち合い、美味しい酒や発酵食品をつくることでお返していく、根底にあるこの思いは変わることはありません。 秋にはいつものように収穫祭を行い、集まって美味しいお酒が飲めることを祈ってやみません。   酒米菊水を原材料にしたお酒はこちら 「酒米菊水純米大吟醸」 https://www.kikusui-sake.com/home/jp/products/p013/ 「酒米菊水純米大吟醸原酒」 https://www.kikusui-sake.com/home/jp/products/products-3268/

2019年12月07日

失敗しない、おいしい燗酒の作り方

いろいろな温度で楽しめる日本酒ですが、特に燗酒を好む人も少なくありません。とはいえ、家で燗酒を作ろうとすると、温度の加減が難しかったり、アルコールが飛びすぎてしまったりと、意外とコツがいるもの。ここでは、簡単に実践できる「おいしい燗酒の作り方」をご紹介します。   日本酒の魅力を引き立たせる「燗酒」とは? お酒を温めることを「燗をつける」「お燗する」、温めたお酒のことを「燗酒」と呼びます。また、燗をつけてお酒のおいしさが引き出された状態を「燗上がり」と呼ぶことも。 冷やして飲む冷酒の人気が定着した一方で、近年では「燗」という日本酒ならではの魅力も見直されています。2019年に10周年を迎えた『全国燗酒コンテスト』(http://www.kansake.jp/#aConcept)が、温めておいしい日本酒を選ぶコンテストとして注目されるなど、温めるとうまみが増す燗酒を楽しむ人が増えてきています。   燗の温度によって香りや味わいが変化 「熱燗」や「ぬる燗」という言葉はご存知の方も多いでしょう。燗酒は温度によって呼び方が変わります。 30度くらいで「日向燗」。温度の高さを感じないくらいで、ほんのり香りが引き立つのが特徴です。 35度くらいで「人肌燗」。さわると暖かく、味にふくらみが出て、米や麹の香りがします。 40度くらいで「ぬる燗」。さわっても熱くはなく、よく香りが立ちます。 45度くらいで「上燗」。注いだときに湯気が出て、引き締まった香りを感じます。 50度くらいで「熱燗」。徳利から湯気が生じはじめ、さわると熱く感じるのがこの温度です。キレの良い辛口を感じ、香りがシャープになります。 55度くらいで「飛びきり燗」。徳利を持つと熱く、シャープな香りが際立ってより辛口になります。   自宅で簡単にできる燗酒の作り方 自宅でも少しの工夫でおいしい燗酒を簡単に作ることができます。その方法をご紹介しましょう。 ①お酒を徳利の9分目まで注ぎます。このとき徳利の注ぎ口にラップをすると、お酒のいい香りが飛ばないのでおすすめです。 ②鍋などに水を張って、お酒の入った徳利を浸します。水の量は、徳利の半分ほどの高さまで浸かるようにしましょう。 ③水の量を調整したら、一度徳利を取り出して鍋を火にかけます。水が沸騰したら火を止めます。 ④火を止めた鍋に徳利を浸します。熱い湯で手早く燗をするのがコツ。ぬる燗にしたい場合は時間を調整します。 ⑤お酒が徳利の口まで上がってきたら、徳利を持ち上げます。 ⑥中指を徳利の底に当ててみて、やや熱いと感じるのがちょうどいい燗の目安です。45度くらいの「上燗」がおいしいと言われることが多いですが、自分好みの温度を探しだすのも自宅で燗酒を作る楽しみのひとつです。 電子レンジで燗酒するポイント 急激に温度が上がってしまう電子レンジでも、ひと工夫すると簡単においしく燗酒ができます。500Wの場合で、お酒1合(180ml)を約40秒加熱すると、「人肌燗」程度に温まります。やはり徳利の注ぎ口にはラップで蓋をしましょう。レンジで温めると徳利の上部と下部で温度差ができるので、まず20秒ほど温めて一度取り出し、温度が均一になるよう徳利をすこし振ります。それからレンジに戻して、好みの温度になるまで少しずつ温めるのがおすすめです。 急激に温度が上がってしまう電子レンジでも、ひと工夫すると簡単においしく燗酒ができます。500Wの場合で、お酒1合(180ml)を約40秒加熱すると、「人肌燗」程度に温まります。やはり徳利の注ぎ口にはラップで蓋をしましょう。レンジで温めると徳利の上部と下部で温度差ができるので、まず20秒ほど温めて一度取り出し、温度が均一になるよう徳利をすこし振ります。それからレンジに戻して、好みの温度になるまで少しずつ温めるのがおすすめです。   お酒の温度を変えて楽しむ、料理とのペアリング 温度によって味や香りが変化する日本酒。菊水酒造では、味覚センサーを使って4つの温度帯ごとにコク、うまみ、ボディ感、コクの余韻、うまみの余韻、キレの6つの要素で分析して、料理とのペアリングを考えてみました。分析に使用したのは、菊水イチ燗上がりして、冷酒でもしっかり旨味がある「菊水の純米酒」です。 冷蔵庫から取り出したばかりの日本酒は5℃ほど。キレが際立っていて、繊細な味の料理と合わせても料理の味を邪魔しません。のどぐろやヒラメの刺身、アジのたたき、豆腐田楽のような自然なうまみがあって、さっぱりした食べ物との相性がいいと言えます。   常温の25℃では、キレが程よく感じられますが他の要素のバランスがいいのが特徴です。焼き魚や焼き鳥、鶏肉の唐揚げなど、塩味とうまみが程よく感じられる食べ物と合わせてみてはいかがでしょうか?   ぬる燗の40℃ほどになると、コクと旨味が膨らんでボディ感がぐっとアップします。ブリの照り焼きや豚肉の生姜焼きなど味わいがしっかりしたものとのペアリングがおすすめです。   熱燗として測定したのは、徳利を触るとアチッと感じるほどの60℃。コク、うまみ、ボディ感にさらに膨らみが出ます。すき焼き、モツ煮、豚肉のスペアリブなど、こっくりと濃い味付けの料理との相性がよくなります。  温度によって味や香りが変わる「燗酒」。自分好みの温度で燗をつけて、楽しんでみてはいかがでしょうか?   燗酒の作り方 監修:國府田宏行 協力:味香り戦略研究所   『菊水の純米酒』商品情報 菊水の純米酒 720ml数量: カートに入れる   「料理とのペアリング」についてはこちらでも紹介しています。 ブック版 菊水通信vol.5