北越後だより

2023年06月27日

『菊水ふなぐち』の味わいを科学する

『菊水ふなぐち』は菊水酒造を代表する日本酒です。缶入り日本酒の中では、POSデータ(2022年8月 酒販ニュース9月21日掲載)によると、清酒の小容量カテゴリーにおいて日本一の販売数量を誇ります。 『菊水ふなぐち』はご存じの通り生酒です。生酒を常温で流通させることは品質安定の難しさ、劣化の面で問題があり、菊水ではかつては蔵に来て頂いた方だけに振舞っていました。一方、生酒ゆえにその旨さは格別で、評判を聞きつけた人が蔵までやってきて所望する時代もあったそうです。そこで、菊水では、日本酒の鮮度を保つための製品開発、容器開発で試行錯誤を繰り返し、50年前の1972年に、日本初のアルミ缶入り生原酒の開発に成功。蔵でしか飲めなかった『菊水ふなぐち』を数多くの全国の方々に愉しんで頂けるようになりました。このように、菊水では、創業以来の進取の気性の精神により、商品開発、容器開発、品質管理など研究開発活動にも以前から熱心に取り組んでまいりました。 菊水の研究開発活動は多方面に渡り、新しい研究開発手法や食品、飲料、酒類技術評価方法、マーケティング調査手法、フードテック関連情報など広く最新情報の収集のためアンテナを張り、市場トレンドやマーケット情報を収集しています。 その取組みの中、現在では、日々の生産ロットの品質管理、鮮度管理、経時変化検証の他、ガスクロマトグラフィ検査によるにおいの質検査、液クロマトグラフィによる呈味検査、味覚センサなど感性工学機器を用いた味覚データ取得による商品管理、商品特長の定量化などまで行っています。 菊水製品の商品ラベルに掲載されている味わいチャートも味覚センサで測定した客観的なデータを示すことにより実際に飲用する前に商品の味わいをお客様に伝えるための取組みの一環になります。【図1】 これ以外に、菊水で現在注力しているのが、フードペアリング評価方法の開発になります。従来、フードペアリング或いはマリアージュについては、評価者のテイスティングなど人間の主観や感覚で捉える方法が世の中では主流でしたが、味覚センサなど感性工学技術の進展により実際に科学分析した結果から食べ物と飲料、酒類との相性を評価する技術が世の中に登場し、菊水でも、業界内ではかなり早い段階からその研究開発活動を推進してきました。これまでの菊水通信のバックナンバーの中にもフードペアリングについて事例を数多くご紹介させて頂いています。   料理品と日本酒の合わせ方としては、いつものように、【図2】で示す通り、料理品と日本酒がそれぞれに持つコク、キレ、濃醇の三角形のグラフから、その形状に着目し、味わいが調和する「調和型」、味わいが深まる「相乗効果型」、味わいを引き立たせる「補強型」、味わいがまとまる「相互補完型」という組合せを探し出し、マリアージュのパターンを見つけ出します。 料理や飲料、酒類などの苦味や渋味は低濃度であるため味わいに輪郭を与えるコクとして解釈し、キレは酸味の強さや口腔内での味わいの後切れとして解釈、濃醇は塩味や味の濃淡として解釈します。苦味や酸味は、人が本来避け、食生活の中で後天的に受け容れる味わいであるため、これらのバランスが重要であると考え、それらが適量となることで味わいに輪郭が加わり、ペアリングやマッチングの可能性が高くなります。 例外として、料理が飲料や酒類を大きく越える苦味(或いは渋味)の場合はマッチングしにくい場合がありますので、菊水では官能評価も併用しています。 味わいの濃醇である塩味などは味わいの濃度の決め手となります。甘味やうま味に関しては双方の濃度に関係なく、「好み」として判断することが多いため、一次スクリーニング判定では使用せず、二次スクリーニングでの官能評価時に判定根拠として考慮する方法を採用しています。 菊水と長年共同研究している味香り戦略研究所のフードペアリングシステムに格納されている約200の食品群の中から、『菊水ふなぐち』に合うペアリング料理を抽出したのが、以下の表になります。意外な組合せもあることに驚かされます。 日本酒醸造・発酵食品製造のモノ造り、日本酒の歴史、文化、愉しみ方等を様々にお伝えするコト造り。菊水はこの両輪で日本酒を楽しくする蔵元です。モノとコト両方面から俯瞰して覗いてみた時、お酒の新たな魅力が発見できることから、菊水では引き続き、研究開発活動を深化、強化して行く予定です。『菊水ふなぐち』と料理の組合せで、これは! というお奨めのとっておきの組合せがあれば、是非菊水までご一報ください。 ■デジタルブック「菊水通信」 https://www.kikusui-sake.com/book/vol21/#target/page_no=3

2023年01月07日

The Terroir of Shibata — Hot Springs

Shibata City, the homeland of Kikusui, is also home to one of the most famous hot springs in Niigata Prefecture called Tsukioka Onsen. True to its name, it is a wonderful hot spring resort that invites a feeling of autumnal travel. It boasts one of the highest sulfur content in Japan, and the water is mildly alkaline and gentle on the skin. The sulfur spring water, which is rare and beautiful emerald green, can turn precious metals black. It is said to be effective in treating dermatitis and adult diseases, and above all, it is known as "the hot spring that makes you more beautiful" because it is thought to be effective in beautifying the skin. It is located about a 15-minute drive away from Kikusui's head office, and you can smell the unique scent of the sulfur spring even when you are in the car. There are also many different inns. The wide selection includes large inns with a variety of facilities, traditional hot-spring cure inns, and private inns that feel like hideaways. If you walk around the hot spring resort area, you will find footbaths where you can casually enjoy Tsukioka's hot spring water, shops where you can enjoy Niigata's local sake, other local delicacies, and of course, local onsen manju! There are also many souvenir shops. In the long cool autumn nights, you can stroll around the hot spring town under the moonlight, take a bath while gazing at the moon ― and don't forget to drink some delicious local sake after your bath. Will you have cold sake after warming up or warmed sake to match the cool autumn weather?   Tsukioka Onsen Tourism Association: http://www.tsukiokaonsen.gr.jp/ https://www.kikusui-sake.com/book/vol5/#target/page_no=7

2022年12月06日

発売50周年 改めまして『菊水ふなぐち』です!

名実ともに菊水酒造の看板商品である“ふなぐち菊水一番しぼり” (旧名称 名称については後述)が発売50周年を迎えました。 ひとえに飲み支えてくださったご愛飲者の皆様あってこその50周年です。心より御礼申し上げます。 “ふなぐち菊水一番しぼり”といえば、この缶(図1:前デザイン)。 全体が金色で、酒樽を模して、白抜きの窓に大きく赤い「菊水」の文字。表現や味わいチャート図、アルコール度数を大きく表示するなど、細かな改良は随時行ってきましたが、全体のデザインを大きく変更することはなく、ずっと長い間、私達社員にとってもこの金色の缶が“ふなぐち菊水一番しぼり”であり続けていました。 今年の発売50周年を迎えるにあたり、私たちはこの商品を改めて〈真っすぐに皆様にお伝えしたい〉と考えました。長い間ご愛飲くださった皆様に感謝の気持ちをお伝えすると同時に、「この味ですよね」とこの酒の美味しさを改めて共有するために。そしてこれからこの商品に出会ってくださるであろう皆様に、「こういう酒です。こんな味わいです。ぜひ試してみてください」とご紹介するためにです。 ■まっすぐ伝わる商品名に。『菊水ふなぐち』 50年前まだ常識の外であったしぼりたての生原酒を、なんとかしてお伝えしたい一心で“ふなぐち菊水一番しぼり”と命名しました。菊水が苦労のすえに開発した画期的な製法が全て込められた商品名です。50年の月日が流れ、加熱殺菌をしない、加水調整をしない、という製法はある程度認知が広まって来たと感じる中で、やはりこの商品を一言で的確に示しているキーワードは*【ふなぐち】だと私達は考えます。 日本酒の製造工程で、仕込んだ醪(もろみ)をしぼる道具を蔵では「ふね」と呼び、その「ふね」の「くち」から流れ出てくるしぼりたての生原酒を、菊水では【ふなぐち】と呼んでいました。菊水の蔵で今しぼったばかりの生まれたて、火入れ(加熱処理)もしない、調合もしない、酒本来の味わいのままの生原酒を表現するのに、【ふなぐち】以上に適した言葉は無いと考え、商品名に採用しました。菊水のこだわりを全て詰め込んだ“ふなぐち菊水一番しぼり”は、慣れ親しんだ良い名前とは今でも思ってはおりますが、少々長い感も否めません。50周年を好機に、思いきって簡潔で且つ特徴を真っすぐに伝える力のある名称に改めようと決めました。新しい名称は『菊水ふなぐち』です。改めまして宜しくお願いします。   ■まっすぐ伝わるデザインに。缶デザインをリニューアル “ふなぐち菊水一番しぼり”という長い名称の時より、50年間ずっと社内では【ふなぐち】という愛称で呼ばれています。一方でお客様からは“菊水”と呼ばれることが多いように感じています。他にも“一番しぼり”や“金の菊水”なんて呼ばれる方もいらっしゃいます。前述のとおり【ふなぐち】という名称こそがこの酒を端的に表していると考えておりますし、社内でも愛着のある呼称ですので、皆様にも【ふなぐち】と呼んでいただけたらな、と思うのです。そのためにはどうしたら良いのか……。発売当時より缶の中央に大きく“菊水”と書かれており、このことがこの商品自体を“菊水”や“金の菊水”と呼ばせている一因かもしれません。今あらためて【ふなぐち】というこの商品の最大の特徴を名称として、飲んでくださる皆様も、造る我々も、共通して【ふなぐち】と呼びたいという願いを込め、缶のデザインも変えよう!新デザインの缶には真ん中に一番大きく【ふなぐち】と記そう!と決めました。 缶全体のイメージを大きく左右する色合いも見直しました。今までのデザインは“金の菊水”と呼ばれるほどに、金色を全面に配したデザインでした。光を放つような金色はとてもインパクトがあり、小さい缶容器ながら存在感を示してくれるものでありましたが、この商品の味わいをまっすぐに伝えているかという視点から見直してみることにしました。しぼりたて生酒ならではのフレッシュでフルーティな香り、キリリと冷やした時の爽やかな飲み心地、原酒ならではのインパクトのあるコク、且つキレの良い後味。全面の金色ではこのフレッシュな香味を表現できていないのではないか?しかし、ガラリと変えることでいつものご愛飲者様を売り場で戸惑わせてしまいたくない、様々に議論は白熱しました。 結果、デザイナーさんは絶妙な匙加減で金色に白色を加えてくれました。今までの“ふなぐち菊水一番しぼり”の雰囲気を纏いつつ、とてもすっきりしたイメージになりました!この商品のフレッシュさ、爽やかさ、キレの良さが感じられる洗練された配色です。簡潔な商品名『菊水ふなぐち』にもとても相応しいデザインと感じます。 実は、発売当初の缶は全体が白色でゴールドは窓枠を彩るアクセント的に用いられているのみでした。 (図2:1972年発売当時の缶)そして、最初にこの美味しさのファンになってくれたのは、新潟のスキーリゾートに遊びに来ていた都会の若い方々でした。従前の日本酒とはひと味違う新鮮な香味を好んでくださったのでしょう。当時の社内資料がなく全くの想像でしかないのですが、落ち着いた色合いの多い日本酒のデザインの中で、この爽やかで軽やかなイメージの白色は、従来の日本酒のイメージに飽き足らない若い感性に向けての情報発信だったとも考えられます。 白色にゴールドのアクセントを入れた缶容器で発売以来、5年後さらに11年後とデザインリニューアルするたびに金色の割合が増え、1986年には金色がほぼ全面となった経緯があります(図3:缶デザイン変遷)。こちらも想像の域を超えませんが、原酒ならではのコク、ガツンとインパクトある味わいを表現したのでしょうか、それとも一升や四合など堂々とした背の高い瓶の中で、小さな缶容器を精いっぱい目立たせたい思いが、光り放つ金色を多くさせていったのでしょうか。デザインの変遷に当時の社員がこの商品に誇りと愛着を持ち、多くの方々に手に取って欲しいと願った想いが見て取れる様です。   商品の特徴と味わいをまっすぐに伝える原点回帰の意味合いも感じさせるデザインリニューアルではありますが、単なるノスタルジック的表現ではありません。新しいデザインの缶に触れてみてください。手触り感が少し違う事にお気づきになるでしょう。白色の部分に特殊インクを使っており、ツルンとした缶では味わえない、ちょっと上質な手触りを感じていただけます。 さて。生原酒といった大きな特徴に比べ、お伝えする機会が少ないのですが『菊水ふなぐち』は国の定めた規定に則り厳選した原料で特別な製法を行う「特定名称酒」です。日本酒は「普通酒」と「特定名称酒」に分けられます。日本の酒税法に定められた製造法と名称に関するルールがあり、一定の条件を満たした日本酒でなければ特別な名である〈特定名称〉を冠することは許されていないのです。この条件は中々に厳格です。原料米は農産物検査法により3等以上に格付けされた玄米(もしくはそれと同等の玄米)であること、麹米の使用割合が15%以上であること、出来上がった酒は固有の香味を持ち色沢が良好であること。これらの基本条件をクリアしたうえで、原料米をどのくらい削っているか、醸造アルコールの使用有無(醸造アルコール使用するタイプは、アルコール分95度換算の重量が白米の重量の10%を超えない)などにより、8種類ある特定名称のうち適したものを名乗ることが出来るのです。吟醸酒、純米酒などの名称を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。これらの総称が特定名称であり、『菊水ふなぐち』はこの中で本醸造酒を名乗ることが許された、特定名称酒なのです。日本酒造組合の調べによりますと、日本酒の国内出荷量に占める特定名称酒の割合はわずか34%(令和3年)であり、これ以外は普通酒・一般酒となります。 大前提として特定の名を冠することのできる基準の造りをした酒であり、そこに加えて、加熱処理を行わずとも劣化しづらい技術を以てのフレッシュさ、加水調整しない日本酒本来のコクなど、この小さな缶の手軽なイメージからはちょっと想像し難いほどの品質を詰め込んでいると自負しています。新しい缶の手触りから、「しっかりした品質の美味い酒を多くの方々へお届けしたい」菊水の心意気を感じていただければ嬉しく思います。   ■語りつくせない想いも整えて記しました。 このように語りつくせない『菊水ふなぐち』の魅力。ぜひ知っていただきたい諸々を、新しい缶に記しています。今まで情報の追加を重ねることで様々なフォントが混じっていた文字情報も、読みやすく整えました。ぜひ手に取って、読んで、味わってください。いつもご愛飲くださっている方々には「なるほどこの美味しさの理由はこれか」と思っていただきたく、はじめましての方にはこの味わいをまっすぐにお伝えすることで手に取っていただけるように、思いを込めて50周年を機に色んな改良を行いました。 50年目の改めまして。『菊水ふなぐち』です。これからもどうぞご贔屓にお願い致します。   *【ふなぐち】は菊水の登録商標です。 ◆WEBマガジン「菊水通信」 https://www.kikusui-sake.com/book/vol21/#target/page_no=7

2022年10月19日

The Terroir of Shibata

Shibata City, in Niigata Prefecture is the home of Kikusui’s brewery, and the city is located in the North of the Echigo Plane, which is known as one of the leading food production areas in Japan. This area is surrounded in rich natural landscapes, from the beautiful coast to the Northwest, to the mountainous region to the Southeast. The abundant snowmelt that flows into the Kaji River brings moisture to the fertile earth, and the area is also known for producing several different strains of high-quality rice. Making good sake requires the three elements of good weather, rice, and water, in addition to good craftsman (the chief brewer and those who work with them). The hometown of Kikusui is blessed with all of these, but this time we will be concentrating on the water. Water is classified as either hard or soft. Water with a large amount of mineral content (like calcium and magnesium) is hard, and water with less is soft. The minerals in hard water act as food for the yeast in the brewing process, leading to lively fermentation, and fewer failures, which is why it was regarded as superior at a time when brewing techniques weren’t as developed as they are today. On the other hand, soft water, which contains less of these elements, encourages gentler fermentation, leading to a slower fermentation process. With the advancement of brewing techniques, ginjo sake, which is regarded as the measure of a brewer’s technique, is now quite popular. Within the tax agency’s definition of ginjo sake brewing, you can find the words “fermented slowly at a low temperature.” This means that soft water is ideal for brewing ginjo sake. It’s also said that sake brewed from soft water has a soft and smooth flavor with a round finish. Almost all of the sake brewed in Niigata is brewed with soft water. Sake from Niigata is praised for going down smoothly, and for having a light and clean finish, and Niigata exports more ginjo sake than any other prefecture in the country (According to a study by the Japan Sake and Shochu Makers Association), which is likely due to this soft water. Of course, Kikusui is brewed with soft water as well. Shibata, the hometown of Kikusui, is a treasure house of natural water resources for the production of sake, from the water of the Kaji River which flows right near the brewery and its abundant groundwater arteries below, to cool and clear underground water which comes from the plentiful snowmelt of the Iide Mountains.

2022年09月30日

What is Kikusui Sake Culture Research Institute?

Our roots are firm in this region, and we will continue to contribute to people's health, refreshment and enjoyment through cultivating the blessings of the earth with the power of fermentation that has been fostered since our founding, and by taking advantage of the traditional Japanese culture that has been passed down to us. The Kikusui Institute for Sake Culture embodies this commitment. Exhibition Area – Countless tools and sake sets that amplify the joy of drinking This is the reference room. There are more than 15,000 sake bottles and tools in this area, some of which are on display. These materials tell us that sake has greatly contributed to the cultivation of diverse cultures since ancient times. Sake is dedicated to god for good harvest and helps to form bonds between people. Sake is served in all occasions from joy to happiness to anger to sadness, and is enjoyed in the outdoors while feeling the change of the seasons. Even time changes, sake continues to be a part of people's lives. Kikusui discovers ways to make sake more interesting and fun while unraveling these reference materials. ibrary: Literature collction of sake and food culture This is the library. A wide range of literature that captures sake from various perspectives, such as papers regarding sake brewing to specialized books and novels related to sake and food culture, fills the bookshelves across the walls that stretch from the ground to the ceiling. There are over 16,000 books here. Some of the materials include a collection of “drawing cards” made in the Edo, Meiji, and Taisho periods, which are similar to modern-day flyers, and cookbooks written by Ukiyoe artists in the Edo period, all of which shed light to the lifestyle back then.

2022年07月13日

新しいユニフォームはアロハシャツ。

「菊水はお酒を愉しくする会社でしょう?」菊水の社長・髙澤が折に触れ私達社員に問いかける言葉です。 商品開発もご提案も接客もイベントなど、菊水の全ての行動の根幹にはこの言葉があります。 そんな菊水の名実ともに看板商品である『ふなぐち』が発売50周年を迎えました。この記念イヤーを『ふなぐち』好きの皆様と共有したい、日本酒好きな皆様と喜びたい、なんなら日本酒好きじゃない方々とも楽しみたい!お酒を愉しくする菊水、お酒を通して心豊かな生活をお届けしたい菊水、菊水らしい何かが出来ないか…… 出した答えの1つが「アロハシャツ」です。 酒蔵でアロハ?! 夏らしいフランクさがあって、着る人もウキウキ愉しくなって、見る人がつい「アロハ、可愛いですね」と気軽に声を掛けたくなる様な、そのアロハを着た人がそこに居るだけで場がパッと明るくなる様な、そんなお揃いのアロハシャツでお客様とお会いしよう、一緒に発売50周年記念を愉しもう、との想いからです。 アロハシャツって不思議です。菊水には20代〜60代の社員がおりますが、皆それぞれに似合ったのです。皆が何となく着こなせているのです。上の画像は社長を中心に、いつもお客様の最前線に立つ部署の社員の、アロハシャツお披露目で撮影したものです。様々な年代の社員が並んでいますが、皆それぞれに似合っていると思いませんか?可愛いく着こなす人、お茶目に、実直に、少し照れながら、渋めに等々それぞれの個性をアロハが引き立たせてくれるかの様に見え、とても驚きました。早速こちらを公式のSNSに掲載すると大きな反響があり、中には「どこで購入できますか?」の問い合わせもたくさん頂きました。 アロハマジック!アロハ効果恐るべし。着る人の年代それぞれに似合ってしまう懐の深さに興味が出て、アロハシャツの歴史を少し調べてみました。 アロハシャツの歴史を少し ALOHAとはハワイ語で「好意・愛情・慈悲・優しい気持ち・思いやり・挨拶」という意味を表すそうです。ゆったりした着心地、愉しいデザイン、カラフルな色使いのシャツが持つイメージにぴったりですね。ナイスネーミング! です。アロハシャツの発祥には諸説あるようですが、ハワイの日系移民が深く関わっていることは間違いない様です。ハワイのサトウキビ畑で働く日系移民が作業着として着ていた開襟シャツ「パカラシャツ」、これが現在のアロハシャツの原型になったと言われています。常夏の地での畑仕事用作業着が起源ときけば、現在のアロハシャツの、風通しの良い開襟で、身体の動きを妨げないゆったりした着心地といった形状に合点がいきます。 この様に日系移民の作業着として浸透していたパカラシャツ。日系移民は、日本から持ってきていた着物や浴衣が古くなると、その端切れを子供用のパカラ風シャツに仕立て直して着せていたそう。この着物や浴衣の日本独特のデザイン、いわゆる和柄が、現地の人や観光で訪れる人の目を惹き、徐々に人気を博していったのだそうです。 その後、日系移民である仕立て屋「ムサシヤ・ショーテン」が和柄の生地を使った開襟シャツを仕立てて販売、1935年に新聞に「アロハシャツ」という名称で広告を出したのが始まりだそうです。翌年にはムサシヤのアロハシャツを取り扱う中国系移民の洋品店が「アロハシャツ」を商標登録し、1950年代は特に和柄のアロハシャツが多く造られました。南国風やハワイを象徴する柄のものなども多く出回り、ハワイを代表するウェアとして定着、1960年代後半までにはハワイのビジネスシーンにもアロハシャツが浸透したとか。今では冠婚葬祭の場でも着用されるハワイのフォーマルウェアにまでなっていることは皆さんご存知のとおりです。 海を渡った日系の移民の作業着だったパカラシャツ(パカラシャツ自体は英米の船員がもたらしたフロックシャツが由来)、その形を基に着物・浴衣を仕立て直して子供に着せたパカラ風シャツがアロハシャツを産み、長い時間を経てハワイに定着したという歴史、そしてそのアロハシャツをここ日本で『ふなぐち』50周年記念のお祝として身にまとう私達。アロハシャツが海を渡り日本に里帰りして来てくれたような、不思議な感慨を覚えます。 遠く離れた異国の地で、日本独特の生地や文様、言い換えると日本の文化ともいえる和柄が現地の人の目に新鮮な驚きを与え、惹きつけ、多くの人に受け入れられ、長い時間の経過とともに現地に即した変容を重ねながら、現地に定着する…… これは、日本酒が海を渡り受け入れられるまでの道筋と重なって見えました。   財務省の貿易統計に基づく日本酒造組合中央会の発表によると、2021年(1〜12月)の日本酒輸出実績は、金額・数量ともに過去最高を記録、金額では約401億円に達しました。海外での日本酒の人気はうなぎのぼりと言える数字です。また、現地でのSAKE造りを行う蔵も増加しており、ある調査では世界全体で60以上の酒蔵があるそうです。ちなみに「日本酒」と名乗れるのは、日本の国産米を原料とし、かつ日本国内で製造された清酒のみです。よってここでは海外で作られる清酒はSAKEと記しています。 以前より日本酒はこんなに海外で人気だったのでしょうか?そもそも日本酒っていつから輸出されているの?いろんな疑問が湧いてきますね。酒どころで知られる西宮の白鹿記念酒造博物館で、昨年12月より今年3月まで日本酒の海外進出の歴史を追った企画展「酒からSAKEへ」が開催されました。その紹介記事が様々な疑問に答えてくれています。日本酒の海外進出の契機と考えられているのは明治の欧州で開催された万国博覧会。世界に日本酒を知ってもらうために、1878年の第3回パリ万博、1889年第4回パリ万博、1900年第5回パリ万博と複数年にわたって参加し日本酒を出品しましたが、残念ながら万博での高評価にはつながらず、「ほろ苦いデビュー」だったそうです。一方でアロハシャツと同様に日系移民がここでもキーマンでした。同じ頃アジアやアメリカへ渡った日系移民に向け、日本酒が多く輸出されていたのです。遠く祖国を離れ慣れない環境で苦労されたであろう方々に、日本酒が疲れた身体を癒し、心を慰めてくれる必需品であったことは想像に難くありません。移民の為に日本酒が多く輸出された時期、そして戦争時の混乱期を経て、戦後は現地駐在の日本人による需要として日本酒の輸出量は増え続け、また同時に日本の大手酒造メーカーが現地生産を始めました。日本酒や現地生産SAKEは日系のみならず、じわじわと現地の人々にも受け入れられるようになりました。続いて起こった世界的な寿司・和食ブームに牽引されるように日本酒ブームが起こり、現在では先に記した様に日本酒の輸出増大、現地では日本の大手メーカーのみならず現地の人がマイクロブリュワリーを開設したり、日本人が海外で蔵を開き、そこで造られたSAKEが日本で人気になるという、いわば逆輸入の様な現象まで起きているのです。 アロハシャツと日本酒の来た道 菊水でも多くの酒を輸出しています。はじまりは1995年米国NY向けでした。信頼できるディストリビューターさんと出会えたことがきっかけです。 当初はやはり現地駐在員の使う飲食店向けがほとんどだったそうです。ハワイへの初出荷は2001年。その後、米国本土でもハワイでもじわじわと、でも確実に駐在の日本人向けのみならず、現地人向けの飲食店や小売店で菊水の酒の取り扱いが増えていきました。 需要の増加が進む中、2006年にはディストリビューターさんが「もっと日本酒を学び、正しい知識をもって販売したい」と、1週間ほどこちらに滞在し、洗米から上槽まで菊水の酒造工程の一通りを全て体験する酒造研修を受けてくださることになりました。 この研修は日本酒の深い知識を得ていただけたばかりか、現地のディストリビューターの社員さんと菊水が互いのことをより理解しあえるという副産物も与えてくれたのです。そしてこの研修は毎年続くようになりました。 研修にいらっしゃる方々はディストリビューターさんをはじめ、今では菊水の酒を取り扱ってくださる飲食店の方々にまで範囲が広がりました(コロナ禍で現在は休止中)。来ていただくばかりではなく、菊水も動きました。2010年には現地法人 KIKUSUI SAKEUSA,INC.をLAに、続いてNYにも設立しました。かの地でしっかりと菊水の美味しさを伝える専任スタッフが常駐し、日々活動に勤しんでいます。 米国からはじまり、現在ではアジアや欧州など23ヶ国に向け私達の酒を輸出しています。 後にアロハシャツとなる着物や浴衣の素材は、ハワイへ渡った日本人と共に海を越え、日本酒はアジアや米国へ渡った日本人に向け輸出されました。 はじまりは日本人のためだった日本独特のものが、時を経てゆっくりと現地の人々からも受け入れられ、次第に現地社会に溶け込んでいく。衣服の和柄と飲料の日本酒と違いはあれ、それらが辿った道筋はとても似ているように思えます。良い物は国を超え、時を超え、文化の壁を越えそして物自体もその時代やその場に即して変容していくことで、一層愛され残っていくという道筋は共通していますね。ある国の文化といえるものが、異国・異文化へ拡がっていく様に普遍性を感じます。酒造会社である私たち菊水がアロハシャツを着ることに不思議なご縁を感じずにはいられません。 古より続く文化を守ることはとても大事なことです。しかし頑なに昔からの形式だけに固執するのではなく、その文化の本質を大切にしながらも同時に時代に沿った方法を柔軟に取り入れ、今この時代に生きる皆さんとその文化の楽しさや美味しさを共有できることが何より大事だと私たちは考えます。長い時を生き抜きアロハシャツや日本酒が今でも愛されているのは、大きな時流のうねりの中で、たくさんの先人がその時代その場所に合った方法で着用・愛飲してきたからに他なりません。長く愛されているものの歴史を振り返りその知恵を学ぶことで、未来につながっていくのではないでしょうか。 アロハシャツと日本酒の来た道を知り、そんなことを思いました。 菊水のアロハシャツは、アイコン化された『ふなぐち』を四方八方に散りばめ、地色は『ふなぐち』の補色であるブルー、よく見ると菊水紋も描かれています。 爽やかで明るくて、どこか懐かしいノスタルジックなイメージのアロハシャツ、菊水社員それぞれの年代に合わせた着こなしを観にいらっしゃいませんか。 ◆蔵元直送オンラインショップ「KAYOIGURA」 KEITA MARUYAMAデザイン。菊水スタッフ着用のレアアイテムが限定発売! <新発売> 菊水オリジナル ふなぐちアロハシャツ https://www.kikusui-sake.shop/c/shuki/aloha   ◆WEBマガジン「菊水通信」 https://www.kikusui-sake.com/book/vol20/#target/page_no=7 ◆参考 ・サンサーフ(東洋エンタープライズ)「HISTORY OF ALOHA SHIRT Vol.001 /アロハシャツの起源と歴史①」https://www.sunsurf.jp/news/193/ ・お酒の輸出と海外産清酒・焼酎に関する調査(Ⅱ)喜多常夫(醸協2009) ・続・ハワイにおける日本酒の歴史 二瓶孝夫(醸協1985) ・SAKE TIMES 日本の「酒」が世界の「SAKE」となるまで ―白鹿記念酒造博物館で学ぶ日本酒の海外進出の歴史 https://jp.sake-times.com/knowledge/international/sake_hakushika-memorial-museum