北越後だより

2020年11月09日

古のチラシ「引札」百花繚乱

私たちがチラシと呼んでいる広告宣伝のために作られ配布される印刷物、実は江戸の頃からあったのをご存じですか? もちろん今のような印刷技術はありませんから往時は木版画、名称も「引札」と呼ばれていたようです。始まったのは元禄の頃からで、町人文化の最盛期である文化文政の頃から花開いたと言われています。 江戸時代の商業主義の発展に伴って登場し、明治時代には印刷技術の革新もあり、多種多様に盛んに発行されるようになりました。それまでの店の看板や暖簾といった常設の広告と大きく異なり、お客様の手に渡せ、多くの人に伝達できるこの画期的な宣伝手段は隆盛を極めました。 引札という名称も諸説ありますが、お客様を引く引き付けるための札だから引札という説、また昔は「配る」ことを「引く」とも言っていたことから引札と呼ぶという説が有力です。一般に引札と呼んだのは大正の初めころまでで、それ以降はチラシと呼ばれるようになったと(関西では昔からチラシと呼んでいたという説もあり)言われています。   まるでその時代にタイムスリップ!収蔵品の一部をご紹介 菊水の日本酒文化研究所(日文研)も200枚を超える引き札を所蔵しています。初期の品と思われる墨一色の口上を述べただけのシンプルなものから、店舗内部を描いた多色刷りの美しい絵図に、まるで現在の通販のような販売の仕組みを朗々と述べる口上を添えた呉服店の立派な引き札、オーソドックスに干支を描いた年始のご挨拶用引札から洒落の効いたデザイン性の高いものなど、本当にバリエーション豊かです。往時の人々の生活を活き活きと伝えてくれる引札資料は、見ているとまるでその時代にタイムスリップしたような気持ちになれるのです。一部をご紹介しましょう。   正月引札 干支 年始の挨拶に配るために作られた引札を、特に正月引札と呼びます。干支や宝船、福の神など新しい年を言祝ぐに相応しい吉祥柄が描かれることが多い様です。日文研所蔵の正月引札の中から今年(令和二年)の干支である子(ねずみ)の引札です。ねずみ、打ち出の小槌に実った稲穂とお目出たいモチーフが満載。表装したら掛け軸になりそうですね。 お多福満載 楽器を奏でたり、書をしたためたり、お酒を飲んだり、あらやだオホホと笑い合ったり、楽しそうなお福さんがぎっしりと描かれており、賑やかでお目出度くて微笑ましい作品。それぞれに違った様子のお福さんに思わずじっくりと見入ってしまいます。このみっちり感はまるで引札版ウォーリーを探せ!ですね。   専門は巨大化させちゃえ 鮮魚商と料理仕出し屋の引札ですから、魚介モチーフを大胆に描いたのでしょうか。あり得ない巨大な伊勢海老を恵比寿様が笑顔で捕まえている、おめでたくてユニークなデザインです。このお店なら生きが良い鮮魚扱っていそう!と思ってしまう、今でも十分通用しそうな洒落た引札ですね。   金のなる木!? 商売繁盛の福の神である大黒様と恵比寿様が園芸に勤しんでいます。その木は「よくはたら木(良く働き)、ゆだんのな木(油断の無き)、あさお木(朝起き)、家内むつまじ木(家内睦まじき)」など、お金持ちになる心構えの文字で出来ています。商人への格言集といった風情です。   版元(印刷業者)の工夫 見本(テンプレート)躍進 同じデザインなのに、違うお店の引札。これぞ版元の工夫で大流行した見本帳商売の活用例です。片や東村山の運送店、もう片方は京都の米屋です。同じ図柄であっても、運送店の方には大正五年の暦が入っており、米屋のほうには大きな米という文字が。同じテンプレートでもオリジナリティを出せる余地があったことが見て取れますね。   究極の複合技。グラビアで広告で情報誌! 幕末から明治中期にかけて活動した人気絵師 月岡芳年が描いた「東京料理頗別品(とうきょうりょうり すこぶる べっぴん) 芝口 伊勢原」。浮世絵の画題によくあった店の看板娘を描く美人画と、その店の宣伝を兼ねて描くという、ハイブリッドな工夫を凝らした作品です。これは、伊勢原以外にも久保町の松栄亭、芝神明の車屋など高名な会席茶屋に各地の美人名妓や仲居を描いた揃物(シリーズもの)です。二階の手すりに寄る芸妓 柏屋小兼、三味線を置いて徳利を持つ芸妓 立花屋小登喜、奥の階段を上ってくるのは仲居のよしと云われています。明治四年の作、文明開化ムードが窓の外の西洋館に見て取れます。なお、タイトル中の別品は、特別料理の別品と、美人の別嬪に掛けているのです。     いかがでしたか?引札を見ていると、社会の中での人々の生活や営みは100年以上前も、技術の差はあれど、大きな違いなど無いなぁと思います。人々の生活とそれを支える商売があって、それぞれが繁盛のために工夫を凝らす。デザイナーとしての絵師、引札のコピーライティングには戯作者が多かったようですし、出版社としての版元がいて、出来上がった引札は世間に散らばって、その情報を頼りに市井の人が買い物をしたり、アートとして部屋に飾ったり。歴史は全くの別世界などではなく、現在と地続きなのだなと実感してしまいます。 引札は、その時代の生活に密着した大衆的なものであっただけに、人々の生活、当時の社会情勢や文化を知る手がかりとなり得る、とても貴重な史料であるといえるでしょう。   引用:菊水通信Book版 Vol.12 https://www.kikusui-sake.com/book/vol12/#target/page_no=5

2020年11月06日

日本酒物語 | 日本最古の酒は、猿が造った?!

世界中のほとんどの民族が自分たちの酒を持っているように、日本でも、太古から主食である米で造る酒が飲み継がれています。 その深みのある、まろやかな味わいは世界に比類ないといわれ、各国のさまざまな料理にもよく合い、しかもアルコール度数は15~16度という胃にやさしい濃度。一度この味を知ったら手放せなくなるのが日本酒だといわれています。 では、この日本酒はいつ頃から作られ、飲まれているのでしょうか?また旨さの秘密は?そんな知りたいことがいっぱいの日本酒に関して、歴史をたどりながらお話していきます。 --------------- vol,1 | 日本最古の酒は、猿が造った?! 昔、猿が酒を造ったという話をお聞きになったことはありませんか? 満月の夜、猿が木の穴や岩のくぼみなどに食べ残した山ぶどうなどをかくしておくと、次の満月あたりには酒になっていたという『猿酒』エピソードです。 この酒をきこりが見つけて盗み飲みしていたというのです! それなら現在でも林業にたずさわる人たちが、どこかの山中で『猿酒』を発見したというニュースがSNSで拡散されてもおかしくないですが、残念ながらそういう知らせはありません。 やはり、作り話だったのかもしれません。   ところが、これと同じような酒を、実はほかならぬわれわれの祖先が造っていたという、ほぼ確実な痕跡が発見されているのです。 縄文中期にさかのぼります。 長野県諏訪郡富士見町の藤内遺跡群から出土した多くの土器のなかから、酒壷として使われていたと思われる高さ51cmという大型で膨らみのある『半人半蛙文 有孔鍔付土器』があったのです。 広い口元には、発酵によって出るガスが抜ける穴が18個あいていて、壷の中に山ぶどうの種子が付着していたのです。 ここから、日本最古の奬果(しょうか:汁の多い、種子の多い植物)の酒が造られていたものと考えられました。   同じ縄文中期まであったと思われているもうひとつの酒が、堅果(けんか:果皮が木質か革質で堅い果実。クリ・カシ・ナラなど)や雑穀などで造った『口噛み酒』です。 この酒は、日本の古代だけでなく、南米のアンデス高原やアマゾン上流域の先住民の間でも、それぞれの民族の食べ物(でんぷん質のもの)を口で噛んで造っていました。奬果の酒と、雑穀の酒が、地球上に現れたアルコール飲料の原点とみていいでしょう。 やがて、縄文後期に入り、中国から稲作が渡来すると、口噛みの技法は米飯による酒造りへと受け継がれていきました。   <参考文献・参考サイト> 日本酒物語 著/國府田宏行

2020年10月30日

ふなぐちに合う缶つまはこれだ!

「コンビニ最強酒」に合う「おつまみ缶詰 No.1」が決定!     コロナ禍で外出や会食の機会が減り「家飲み」の時間が増えた反面、家の用事が次から次へと目について、新しい生活様式の中で、自分の晩酌まで手が回らないという方も多いかもしれません。忙しい大人たちにとって調理の手間無し、片付けらくらく、そして何よりおいしい缶詰のおつまみは、強い味方。そのバリエーションも幅広く、和洋折衷激辛ものまで缶詰はもはや「グルメ」と呼べるでしょう。   そんなグルメな缶詰シリーズの中でも「おつまみ缶詰No.1」(※1)として名高い国分グループ本社様の「缶つま」をパートナーに迎え、菊水酒造では、缶入り清酒No.1(※2)の「ふなぐち菊水一番しぼり」にぴったり合うおつまみ缶を決定するキャンペーンを実施しました。 その名も、「『ふなぐち』に合う『缶つま』選手権」。 食や酒の有識者や、菊水のファンサイト・SNSを通じて投票を呼びかけ、「ふなぐちに合う!」と思う「缶つま」をWEBで投票していただきました。 ◆ TOP3の缶つまとは・・・   https://www.kikusui-sake.com/home/jp/cp/funaguchi-cantsuma/result.html ◆ 味覚センサーで徹底分析!TOP3のマリアージュを科学する https://www.kikusui-sake.com/book/vol13/#target/page_no=5     ※1 富士経済「2019食品マーケティング便覧」 ※2 日経POSセレクション「平成売上No.1缶入り清酒」

2020年10月30日

熱燗だけが燗酒じゃない。上手に燗をつけて風流を楽しもう

日本酒は、幅広い温度帯で飲まれる、世界でも珍しい酒だ。冷え冷えの5℃あたりから熱々の60℃近くまで、いろんな味わいを楽しむことができる。日ごとに秋が深まり、朝晩がちょっと肌寒く感じられるようになると、やはり温かい酒が恋しい。年中冷やした酒を飲む人が増えているが、昔は、旧暦九月九日(新暦10月25日)の重陽の節句を過ぎると、酒は温めて飲むものとされていたようだ。   日本酒を温めることを「燗をつける」あるいは「お燗する」という。温められた日本酒は『燗酒』だ。とあるチェーン店の居酒屋で、ドリンクメニューに   日本酒 冷または燗   とあったので「燗」を頼んだ。するとアルバイトらしき女の子に「熱燗ですね」といわれ、あまり熱いのは好きじゃないが、この店ではそうなのかと諦めた。   温めた酒=熱燗と思ってる人も多いようだが、そうではない。燗の温度によってそれぞれ美しい表現があり、もちろん香味の感じ方も違ってくる。 一般的に燗酒に向くのは純米酒や本醸造酒で、冷酒に向くのは香りが華やかな吟醸酒や大吟醸酒といわれている。ただしすべての銘柄に共通するのではなく、ぬるめの燗にしておいしい吟醸酒や少し冷やして飲みたい純米酒もある。燗をつけてよりおいしくなったら、それは「燗上がりする酒」。菊水の純米酒なんかがそれだ。ひとつの酒をいろんな温度で飲んでみるのも楽しいだろう。   さて、温度帯による燗酒の表現を知ったはいいが、実際に店で「日向燗」「人肌燗」などと通ぶるのはちょっと恥ずかしい。上燗は「適燗」ともいうので、それを中心に”熱め”がいいか”ぬるめ”がいいかといったところか。 居酒屋チェーン店などでは、一升瓶を逆さに設置してボタンを押すだけで下から燗酒が出てくるような酒燗マシンが使われているのだが、そのような機械でも3つ程度の温度設定ができるようだ。   しかし、由緒正しき燗酒の作り方は、なんといっても湯煎である。店の厨房の片隅に置いた『どうこ』と呼ばれる四角い酒燗器を使う。木製の箱で、内側はステンレスになっていて、電気で湯が沸かせる。もちろん温度調節も可能だ。   秋の、やけに冷える夕べ。ガラガラっと引き戸を開け、カウンターに座るや「1本つけて」と声を掛ける。店主は一升瓶を手に取ると、金属製の『ちろり』という取手つきの器に1合注ぎ入れ、それを『どうこ』の湯に浸ける。そして頃合いを見て引き上げ、温まった酒を徳利に移し換えて出してくれるのだ。 ぬるめ熱めの好みを伝えてもいい。日本酒にこだわりの強い店ならば、主人や女将のオススメの温度で供されるかもしれない。   かつて料亭などには、『お燗番』と呼ばれる酒燗のプロがいたそう。客の好みや酒の特徴、料理などに合わせて、最適な温度を見極めて提供したのだ。 そういえば、近ごろあまり見なくなったが、徳利型の一合瓶があったのをご存じだろうか? 栓が王冠で、酒の液面と王冠の裾に8ミリほどの隙間があった。燗をつけると熱膨張で液面が上昇するのが見えて、隙間が半分になったら『ぬる燗』、なくなったら『熱燗』というふうにバイトの先輩に教わったな…。 家庭で湯煎する場合は、①徳利に九分目まで酒を入れ、注ぎ口にラップをする。②鍋などに徳利の半分まで浸かる水を張って火にかけ、沸騰したら火を止める。③火を止めた鍋に徳利を浸し、酒が徳利の口まで上がってきたらできあがり。湯の量や徳利の素材・厚さなどにより熱の伝導は異なるが、あまり時間をかけるとアルコールが飛んでしまうので、2〜3分で燗するのがコツ。   電子レンジでもできないことはないが、徳利の上部と下部で温度のムラが出やすい。出力500Wの場合、1合(180ml)あたり約60秒で熱燗になるので、30秒くらいで一度取り出して徳利を揺すって酒の温度を均一にしてから再度レンジに入れるといい。     しかし、どうよ。「チン!」とできあがる燗酒と、湯の中から引き上げた徳利の底を布巾で丁寧にぬぐいながら差し出される燗酒。たとえ同じ上燗であっても、やはり呑むほうの気分は違ってくるだろう。美人の女将ならもちろん、朴訥な健さんであっても、人の手で燗をつけてもらうと心まであったまってしまうのだ。   もっと詳しくは、ブック型『菊水通信』へ https://www.kikusui-sake.com/book/vol5/#target/page_no=3   <参考文献・参考サイト> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所 日本酒の科学 著/和田美代子 監修/高橋俊成 発行/講談社 新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者

2020年10月30日

酒器でお酒の味が変わるって本当?

いつもドタバタ、笑顔の絶えない菊水家の人々。 天高く馬肥ゆる秋。休日の昼下がりは、焼き芋のおやつタイムが始まろうとしています。 もろみちゃんは食器棚で何やらガサゴソ探している様子だけど……。   ・・・・・・・・・・・・・・   げんしゅパパ:食欲の秋。焼き芋が美味しい季節がやってきましたねぇ。 ふなぐちくん:松茸やトリュフも旬を迎えましたねぇ。 からくちママ:サンマは高くて手が出ませんねぇ。 ふなぐちくん:いよいよ鮭児(ケイジ)の季節ですねぇ。 げんしゅパパ:それは知りませんねぇ。 ふなぐちくん:1万匹に1匹しか獲れないと言われる“幻の鮭”のことですねぇ。 からくちママ:お高いんでしょうねぇ……(ため息)。 ふなぐちくん:さ、ほら、お芋、食べよ!ママ、鮭のことは忘れてさ。ふなぐち、もっと他に秋の味覚はいっぱいあるだろ。で、もろみはどうした?もろみ〜、牛乳のコップならもう用意してあるよ。 もろみちゃん:水玉のグラスが見つからないの。あれで飲みたいの。 げんしゅパパ:ああ、そうだった。もろみは、牛乳を飲むのは水玉グラスって決めてるんだったな、ごめんごめん。 もろみちゃん:あったー!だって、牛乳はこれで飲むのがいちばん美味しいんだもん。ジュースなら琉球ガラス、お茶ならお寿司屋さんでもらった漢字いっぱいの湯飲み。 ふなぐちくん:チョイスが渋い。 からくちママ:そういえば、パパもいろんな酒器を持ってるわよね。出張のたびに、いいの見つけたんだーって買ってきて。使ってるの見たことないけど。 げんしゅパパ:その通り、ワタシは酒器が、 からくちママ:「だいしゅき」ってか。 もろみちゃん:オヤジギャグー! ふなぐちくん:不発―!ぎゃはははは。 げんしゅパパ:えぇと。ママ、ワタシたちはちょいと一杯やりますかな!   げんしゅパパとからくちママが、それぞれガラス・磁器・陶器・木(漆器)の4種類の酒器を用意。   げんしゅパパ:第1回、酒器タイプ別・日本酒飲み比べ大会〜! 全員:ドンドンドンドン、パフパフパフ、ワンワンワン! げんしゅパパ:今日はこの4種類の酒器で、同じお酒を飲み比べてみたいと思います。 からくちママ:いただくお酒はコチラ!「ふなぐち菊水一番しぼり」です。 ふなぐちくん:説明しよう! 菊水「ふなぐち菊水一番しぼり」は搾りたての生原酒を開発のアルミ缶に詰めた、フルーティな香りと濃厚な旨味を楽しめるお酒です。 げんしゅパパ:相変わらず、お酒のことはやたら詳しいなあ、ふなぐちは。お酒を飲んだこともないくせに。 もろみちゃん:ないくせに〜。 げんしゅパパ:いつもは、プシュッと開けて、缶のままいただいていますが、今日はこの4つの酒器に移して飲んでみましょう。 では、ティスティングのスタートです。   <ガラス> からくちママ:甘み、酸味、コク、いろんな味がはっきりわかる。香りもストレートにくる感じ。 げんしゅパパ:「ふなぐち菊水一番しぼり」らしい濃厚な味わいが、よく出ている。美味しい!   <磁器> からくちママ:あれ? 香りが穏やかになって、甘みも少し抑えられたような気がする。 げんしゅパパ:確かに全体的に穏やかになって、より飲みやすくなった。美味しい!   <陶器> からくちママ:あ、これはさらにやさしい味わいに。まろやかな印象だわ。 げんしゅパパ:スルッと飲める感じ。美味しい!   <木(漆器)> からくちママ:へぇ〜、これはいちばんスッキリしてる。ずいぶんと変わるものね! げんしゅパパ:こりゃスイスイ飲めちゃう口あたり。美味しい!   もろみちゃん:パパはどうせ、ぜんぶ美味しいんだもん。 げんしゅパパ:みんな違って、みんないいんだよ! からくちママ:私は陶器が好きだわ〜。それにしても、こんなに違いが出るとは思わなかったから、ビックリ。あれ? どうしたの、ふなぐち?目を見開いて ふなぐちくん:そう、ガラス・磁器・陶器・木(漆器)という酒器の違いは、衣服にたとえることができます。ガラスの酒器は言わばぴったりしたドレスのようなもの。着る人の身体の線をきれいに出してくれますが、ややもすると贅肉がついている部分も隠さずに見せてしまいます。つまりお酒そのものの味わいを、大胆に、そして華やかに見せてくれるのです。磁器はゆったりしたドレスです。身体の線は見せつつも、二の腕や太ももなど、ちょっと隠したいところをほどよく隠してくれる、エレガントなドレスのイメージです。 げんしゅパパ:ふなぐち、ふなぐち、大丈夫か?言っていることには完全に同意するぞ。続けて。 ふなぐちくん:陶器は着物のようなもの。身体の線を出す美しさとは違った、調和のとれた優雅さがあります。そして木は、着物の上からさらに割烹着を着るようなもの。ふわっとしたシルエットで身体の線はまったく見えなくなっていますが、落ち着いていて温かみのあるイメージです。 からくちママ:ふなぐちはお酒のこととなると、たまに誰かが憑依したようになるから、我が子ながらコワいわ。でもそれ以上に、ためになるわ。 もろみちゃん:ためになるわ〜(笑)。 からくちママ:確かに、ふなぐちの言う通り、ガラス・磁器・陶器・木(漆器)の順番で、「風味がハッキリ」から、全体がだんだん落ち着いていって、「まろやか」になっていったと思うの。 げんしゅパパ:うん。だから、吟醸酒のような繊細なタイプは、ガラスが合っていそうだね。逆に吟醸酒を木の酒器で飲んでしまうと、せっかくの繊細な香りや味を感じにくくなってしまうだろうね。 からくちママ:旨味や酸味が強い濃厚なタイプのお酒は、陶器や木の酒器でいただくと、よりまろやかな味わいで楽しめるかも。酒器って、奥が深い! もろみちゃん:私は冷たい牛乳を飲むときは、薄〜いグラスで飲むのが好きなんだ。ジュースは厚い琉球ガラスがいいの。 ふなぐちくん:もろみさん、あなたは鋭い!その通り、器の厚みもポイントなんです。同じ素材でも、厚みによって味の感じ方が変わります。そして、形は香りの感じ方に影響するのです。だから、素材の違いで飲み比べするときには、できるだけ同じ形で、同じくらいの厚みの器で試すのがおすすめです。 げんしゅパパ:ふなぐち、何から何までありがとう。素材、厚み、形状、それから飲む温度もいろいろあるよね。そう考えると、同じお酒でも楽しみ方は無限に広がる!宇宙だよ、これは。ママ、おうちに宇宙があったよ! からくちママ:それでは、もう1缶開けてと。パパとママはこれから宇宙遊泳に行ってまいります。 ふなぐちくん・もろみちゃん:ラジャー! ワンワン!   終わり 酒器情報・取材協力/「大塚 はなおか」 文/渡辺 高 イラスト/かとうとおる  

2020年10月13日

つぶやきレシピ |日々のささやかな“つぶやき”が、極上のつまみに変身

日常に起こる、ほんのささいな出来ごと。ちょっぴりうれしかったことや、思わずクスッとしてしまったこと、はたまたついボヤきたくなるようなプチ残念なことなどなど……。 そんなとき、思わず口に出してつぶやいてしまうひと言が、今宵の〈つまみ〉に変身したら、なんだか楽しい。さらには、相性抜群のお酒とともに味わえば、明日もきっといい日!           Vol.3  「“お釣り多いですよ”と言えた日」 いつもと違うルートで帰ったら町の魚屋さんを発見し、興味本位でお買い物。そしたらなんと、お会計時にお釣りが100円多い……。久々の対面販売、自動レジでは忘れていたその感覚に、思わず正直者(小心者?)の自己申告。まぁ、あたり前のことだけど、でもなんだかいいことした気分! 手頃な値段のお刺身も買えたので、今日はこれで素敵メニューを作っちゃおう!     「イカとホタテのタルタル」 (材料)作りやすい分量  ・イカ(刺身等)……50g  ・ホタテ(刺身用)………3個  ・玉ねぎみじん切り(水にさらして水気を絞る)………大さじ1  ・パセリのみじん切り……少々  ・フレンチマスタード………小さじ1/2  ※練り辛子でもOK  ・塩、胡椒………各少々   (作り方)  1.ホタテは塩を軽くふってサッと洗い、キッチンペーパーで水気を拭く。 ホタテとイカはみじんに切る。 2.まな板に1のホタテとイカを乗せ、包丁で叩く。 残りの材料も加えて包丁で混ぜ合わせる。     ◎合わせたいお酒/「無冠帝」(吟醸酒)   タルタル仕上げにしたイカとホタテは、ねっとり食感とコク旨な味わいがなんともリッチ。アクセントの香味野菜やマスタード使いも、キレのよさをプラスします。こんな洋風の味わいにもすっきり寄り添うお酒といえば、菊水の吟醸酒「無冠帝」。きれいな飲み口と爽快な辛口が、“ちょっといいことがあった”ハレの気分にぴったりです。ワイングラスやお気に入りのグラスで愉しめば、テーブルもさらに華やぎます。   フードコーディネート/タカハシユキ 撮影/中原一隆 文/中川節子

2020年09月28日

夏過ぎて、虫の音聞けば うるわしき、菊見月見のひやおろし

厳しい暑さも幾分やわらぎ、朝夕は涼しさも感じられるようになってきた。公園を歩くと、喧しかったセミの声に代わって、草むらの中から心地いい虫の音が響いてくる。マスクをつけて過ごした前代未聞の夏。しかも今年の気温は容赦なかったので、ようやくひと夏越えた、乗り切ったという思いだ。   秋のはしり。日本酒の世界では、まず9月9日にイベントがあった。この日は、今日から『ひやおろし』を出荷していいという解禁日だったのだ。 『ひやおろし』とは、漢字で書くと『冷や卸し』。以前、生酒をテーマにした記事でも触れたが、通常、日本酒は出荷前に火入れを行なって品質を保つ。しかし江戸時代に、夏の盛りが過ぎて、外気と貯蔵樽の酒の温度が同じくらいになると、火入れをせずに冷やのまま出荷したことから『ひやおろし』という言葉が生まれた。   ひと夏の熟成を経た『ひやおろし』は、新酒の荒々しさが消え、味に丸みと深みがある。『菊水の純米酒』や『菊水の辛口』などは、出荷前に火入れをしていないので、製法としてはじつは『ひやおろし』なのだ。しかし冬に仕込み、春から夏に貯蔵熟成させ、9月9日以降に出荷するものを特別に『ひやおろし』と呼んでいる。   ではなぜ、9月9日なのか。実際はまだ残暑が厳しい時期なのだが、旧暦の九月九日が特別な日であったことから決められた。逆に言えば、まだ暑いのに火入れしないで出荷できるほど酒造技術が進歩したというわけでもある。   旧暦九月九日は、中国の重陽の節句。9という奇数で一番大きい数字が2つ重なることから、古くから大変めでたい日とされてきた。その風習が平安時代に伝来し、宮廷の儀式として定着。貴族たちが、まだ珍しかった大輪の菊を眺めながら詩歌などを詠み、健康を祝い、長寿を祈るようになったのだとか。 やがて重陽の節句は庶民の間にも広まっていく。江戸時代には、人々は薬効があるとされる菊の花びらを酒に浸した菊酒を酌み交わして邪気を払った。菊のできばえを競うコンクール『菊合わせ』が催されるようになったのもこのころから。重陽の節句は、別名・菊の節句とも言われる。   それにしても旧暦と新暦とでは、かなりギャップがある。約ひと月ずれるから、本来の重陽の節句は秋が深まるころの行事だったはずだ。9月9日では、菊はまだ咲きはじめだろう。新暦は毎年固定でわかりやすいが、このような違和感をおぼえることもある。とはいえ旧暦を何かの固定日にすると、毎年違う日になってしまって、それはそれで実際の季節感と合わなくなってしまうけど。   そこへいくと、とってもわかりやすくて納得なのが、月にまつわるイベントだ。moon、空に浮かぶ月のこと。そして、秋の月と言えば『中秋の名月』である。ちなみに旧暦では、七月八月九月が秋。ひと月の日数は29日か30日なので、八月十五日が中秋となる。   というわけで、中秋の名月は、旧暦八月十五日に固定されている。そもそも旧暦は月の満ち欠け周期をベースにしてつくられているので、現実とばっちり対応していて、こればかりは新暦に置き換えて固定することができない。毎年、旧暦八月十五日は満月か満月にほぼ近い丸い月が昇るのである。   今年2020年の中秋は、新暦で言えば10月1日(木)だ。東京での月の出は、17時28分。南中するのは、23時26分。まん丸には至らず、月齢は13.7。翌2日が満月で、中秋ではなく『仲秋の名月』と記されている場合は、この旧暦八月の満月を指す。   中秋にしても仲秋にしても、夜空にぽっかりと大きな月が浮かぶのは変わりない。ここはひとつ月見酒といこうではないか。もうそんなに暑くもないだろう。庭や軒先にテーブルを持ち出して、ススキなど飾り、丸いお月様を愛でながら、これまたま〜るい味わいの『ひやおろし』をいただきたい。菊の花びらを浮かべてね。     じつは10月1日は、日本酒造組合中央会が定める『日本酒の日』でもある。その由来には2説あって、ひとつは新しい年度の酒造がはじまる時期だからというもの。もうひとつは10月を十二支で表すと『酉』であり、この字が酒壺や酒そのものを意味しているからというもの。しかしそんなことよりも(と言っては失礼だけど)、驚くべきは、今年は中秋の名月と日本酒の日がぴったり一致していることだ!   こんなこと、めったにないだろう。と、国立天文台のサイトで調べてみたら、1991年から2030年の40年間で、中秋の名月が10月1日なのは2001年と2020年の2回しかなかった。これはすごいことですよ。もうぜったい月見酒しかないのである。   <参考文献> 酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所 酒の日本文化 著/神埼宣武 発行/角川ソフィア文庫      

2020年09月16日

おうちで「キャンプ気分」を味わってみよう!

いつもドタバタ、笑顔の絶えない菊水家の人々。 今日は、朝からみんなでリビングルームの家具をスッキリ片付けて、なにやら始めようという様子。 ホントは今年の夏、子どもたちをキャンプにデビューさせる予定だったけれど、やむなくステイホーム。 おうちでキャンプ気分を味わってみることにしたのだが……。   ・・・・・・・・・・・・・・   げんしゅパパ:いやー、テントも無事に張れたし、気分がいいねぇ。 もろみちゃん:いいねぇ。 からくちママ:テント張るのに1時間もかかるとは思わなかったわよ。 ふなぐちくん:アーンド、テーブルとチェアを組み立てるのに20分。これが実際に炎天下のキャンプ場で行われていたかと思うと、ゾッとしますよ。 げんしゅパパ:ま、いいじゃないか。予行演習になったわけだし。 ほら、キャンプ用品には他にもいろんなものがあるんだぞ。最近は便利な道具がたくさんあって、キャンプもとっても快適になりました。昔はもう大変だったんだから、テント張るのも、ごはんを作るのも。 からくちママ:今日より大変って、どんだけ苦労してたのよ! げんしゅパパ:……ともかく、今のキャンプ用品は本当にすばらしいです。 では、問題。キャンプで使うのにすぐれている道具とは、どんなものでしょうか? チッチッチッチッチ…… ふなぐちくん:ピンポン! 安い!! げんしゅパパ:や、安いにこしたことはないよね! もろみちゃん:ピンポン! 高い!! げんしゅパパ:うっ、確かにいいモノは、得てして高かったりするよね! からくちママ:そういえば、パパ、最近、調子に乗ってポチりすぎよ(ギロッ)。 ふなぐちくん:ピンポン! 保証期間が長い! げんしゅパパ:ほしょ……ふなぐち、お前、わざとやってるな。ブーー! キャンプで使うのにすぐれている道具とは、第一に「機能的」であることです。たとえば、野外で多少乱暴に扱っても壊れない頑丈さ、そして無駄のないデザイン。折りたたんでコンパクトになる携帯性などが、そうですね。 もろみちゃん:そうですね! ふなぐちくん:第二に「環境にやさしい」こと。ゴミを出さない、もしくは、ゴミを減らすための工夫があることも大切ですね。 げんしゅパパ:わかってるんじゃないか! からくちママ:第三に「主婦にやさしい」こと。せっかくのんびりしにきたのに家にいるより忙しいなんて、まっぴらゴメンこうむりたい。 げんしゅパパ:うぉっほん(むせて)、じゃ私はごはんでも作ろうかな。さ、ママはどうぞゆっくりしていてください。これでも飲みながら。 もろみちゃん:あー、きくすいだー。 ふなぐちくん:出ました、菊水の「ふなぐち菊水一番しぼり」! 説明しよう! かつて、搾ったばかりの加熱処理も割水もしない生原酒「ふなぐち」は、菊水の酒蔵を訪れた人だけが味わえる特別なお酒だったといいます。その評判はクチコミで広がっていきましたが、あまりにもデリケートなお酒であるため、品質の保持がむずかしく、商品化は困難でした。 もろみちゃん:真実はいつもひとつ! ふなぐちくん:それは、○ナン。商品化が「こんなん」だったのです。 しかし、菊水は諦めませんでした。開発から実に3年の月日が経った1972年、試行錯誤の末に日本初の缶入り生原酒の商品化に成功します。 からくちママ:あいかわらず、ふなぐちはお酒のこととなると天才的な記憶力を発揮するわね、お酒飲んだこともないのに。 げんしゅパパ:「ふなぐち菊水一番しぼり」は日本酒の常識をくつがえす画期的なスタイルでみんなをビックリさせたんだ。プシュッと開けてみると、フレッシュな味わいと喉ごしで二度ビックリ。今ではコンビニでも買える、とっても身近なお酒になっているんだよ。 もろみちゃん:きのうてき? げんしゅパパ:パチ、パチ、パチパチパチパチ!(スタンディングオベーション)はい、みなさん、もろみさんに拍手を。そうです! 私が言いたかったことは、まさにソレ。「ふなぐち菊水一番しぼり」は機能的で、キャンプにうってつけなんです。 ビン入りとは違ってアウトドアでも持ち運びなどが便利。フタが付いているので、飲んでいる途中にフタをしておけばホコリや虫が入る心配もなし。キャンプ場近くのコンビニで調達できる点も見逃せませんよ。   夕食後、ランプが灯る薄暗い部屋で、げんしゅパパとからくちママはお酒をちびりちびり。 子どもたちはあやとりをしながらまったり。。。   ふなぐちくん:こうして電気を使わずに過ごしてみるだけで、別世界に来たようだよ。楽しいね。 これで虫の声でも聞こえると、もっと雰囲気が出るんだけどなあ。そうだ、こういう時こそAIスピーカーの出番だ。「シリクサ! 虫の声を流して」   「ハイ、ナントカチューブで、鈴虫の声を再生シマス」  ……リーンリーンリーンリーンリーンリーン……   からくちママ:なんだかロマンチックね。ココならキャンプ場と違って蚊も蛾も来ないし、雨が降っても大丈夫。洗い物も水場まで行く必要もないし。テントがうまく張れなくても安心だし。シリクサもいるし。普段の暮らしって、そう考えてみると…… もろみちゃん:きのうてき?   全員:はははは! ワン! ワン!   げんしゅパパ: 早くキャンプ場で「ふなぐち菊水一番しぼり」を飲みたいね、ママ。 からくちママ:そりゃあもう、きっと美味しいことでしょうねぇ。 ふなぐちくん:星空の下で、本物の虫の声を聞きながら、ね。   終わり 文/渡辺 高 イラスト/かとうとおる

2020年09月16日

つぶやきレシピ |日々のささやかな“つぶやき”が、極上のつまみに変身

日常に起こる、ほんのささいな出来ごと。ちょっぴりうれしかったことや、思わずクスッとしてしまったこと、はたまたついボヤきたくなるようなプチ残念なことなどなど……。 そんなとき、思わず口に出してつぶやいてしまうひと言が、今宵の〈つまみ〉に変身したら、なんだか楽しい。さらには、相性抜群のお酒とともに味わえば、明日もきっといい日!           Vol.2  「麦茶を買った自販機で“アタリ”が出た!」 最近あまり見かけなくなったと思っていたクジ付きの自販機。それだけでもレアなのに、まさかの“アタリ”が!予期せぬ出来事ほどうれしいことはないわけで、でももう1本飲んだらお腹もガブガブ……。 そうだ今宵はこれを使って、旨つまみに変身させよう!ラッキー効果で、アイデアも冴えますっ。     「豚肩肉の麦茶煮」 (材料)作りやすい分量  ・豚肩塊肉……350〜400g  ・麦茶………500㎖ぐらい(ひたひたの量でOK)  ・漬け汁(醤油 50㎖、酒・酢・みりん 各大さじ1と2/3)   (作り方)  1.小さめの鍋に豚肩肉と麦茶を入れて、強火にかける。 沸騰したら弱火にしてクッキングシートなどで 落とし蓋をして約30分煮る。 2.別鍋に漬け汁の材料をすべて入れ、ひと煮立ちさせておく。 3.1の豚肉を2に漬け、そのまま冷ます。 耐熱ビニール袋などに入れると保存しやすい。 食べやすい薄さにスライスして皿に盛る。       ◎合わせたいお酒/「菊水の辛口」   漬けダレがしみ込んだ豚肉は、お酒との相性も抜群! なかでも、飲みごたえのある旨さと冴えわたるキレが特長の「菊水の辛口」と合わせれば、飲む手、食べる手が止まらない幸せのループ状態に。麦茶で煮れば豚肉の臭みも抑えられ、さらには香ばしさもプラスされるので、お酒の味わいも生かして殺さずと効果絶大。豚肉は冷蔵庫で3〜4日保存もOKです。   フードコーディネート/タカハシユキ 撮影/中原一隆 文/中川節子

2020年08月31日

ごはんとして食べる米と日本酒になる米はどう違う?

8月も後半になると、南の地方から新米収穫の便りが届くようになりました。代表銘柄は何と言ってもコシヒカリでしょうか。しかしそれぞれの土地の気候や風土に適した地域限定の品種も栽培されていて、その総数は500種類以上にもなるとか。みなさんは、どんな品種が思い浮かびますか?   2019年産うるち米の品種別作付割合を見ると、上位5品種と主な産地は以下の通り。 1位:コシヒカリ/新潟、茨城、福島 2位:ひとめぼれ/宮城、岩手、福島 3位:ヒノヒカリ/熊本、大分、鹿児島 4位:あきたこまち/秋田、茨城、岩手 5位:ななつぼし/北海道 ※(公社)米穀機構まとめ   以下、6位:はえぬき、7位:まっしぐら、8位:キヌヒカリと続きますが、1位〜5位までで作付割合全体の61.8%を占め、コシヒカリに至ってはそれだけで33.9%!ダントツの人気なんですね。     以上8品種はすべて、ごはんとして食べる品種、いわゆる飯米(食用米)です。飯米で造った日本酒がないわけではないですが、一般的ではありません。日本酒の原料になるのは、酒造好適米と呼ばれる通称「酒米」。品種としては100種類以上あるのですが、一般の方が店頭で目にする機会はほとんどないでしょう。   では、飯米と酒米はどこが違うのか。酒米の特徴を見ていきます。   1)粒が大きく砕けにくい 米の胚芽や外層部にはタンパク質や脂質などが多く含まれています。これらは酒の雑味となってしまうため、酒米の場合は玄米の表面を30%〜50%削り落としてから使います。飯米が玄米を8〜10%削って糠を落とす程度なのに比べ、精米に耐えられる大きさと強さが求められるのです。 どれくらい大きいのでしょうか。米粒の大きさは、1000粒あたりの重量を測定して表します。2013年の農水省の資料では、コシヒカリの千粒重が22.4gなのに対して、五百万石は25.5g、山田錦は28.2gもありました。   2)心白(しんぱく)がある 酒米の中心部には、白くて不透明な「心白」があります。飯米はデンプンが詰まっているため透明感がありますが、酒米の中心はデンプンが粗く、隙間があるために白く見えるのです。しかしその隙間があるおかげで、麹菌が内部へ菌糸を伸ばしやすくなり、デンプンの糖化が進み、結果としてアルコール発酵を促します。心白が発現しているだけでなく、その形、大きさ、位置が中心にあることが、いい酒米の条件なのです。   3)外硬内軟で仕込みやすい 米を蒸した際に表面がさらっとしていて捌けがいいとか、仕込んだ際にもろみが溶けやすいのも酒米の特徴。稲の時も米粒が大きくて重いために倒れやすく、一般の飯米よりも栽培が難しいと言われる酒米ですが、酒造りの長い歴史の中で数え切れないほどの異種交配を繰り返し、酒造りに適した米へと改良されてきました。   酒米の人気銘柄は、酒米の王者と言われる「山田錦」と新潟県で開発された「五百万石」がツートップです。菊水酒造では新潟産の五百万石を中心に、五百万石の親である「菊水」や五百万石と山田錦を掛け合わせた「越淡麗」といった銘柄を主な原料としています。   おいしい米と、おいしい酒になる米では、特徴が異なることがわかりました。しかし、ここで新たな関心が——、酒米を炊いて食べたら、どんな味なの?と。本当においしくないのでしょうか?ひとたび興味を抱いてしまったら簡単に諦めることのできない編集部では、『酒米を食べてみ隊』を結成し、実際に炊いて食べてみることにしました。   入手した酒米は、新潟・新発田産の五百万石の玄米。隊員は、菊水通信チーフエディターのN、デザイナーのE、ライターのT。三者三様の実食レポいきまーす。   <E> 玄米を水に10時間以上浸してから炊飯器で普通に炊きました。玄米だからか炊きあがりの匂いが香ばしく、プチプチした食感がたまりません。大人だけにわかるおいしさかと思ったら、3歳と6歳の子どももパクパク食べておかわりしていましたよ。   <T> 米屋へ持ち込み、五つ星お米マイスターの中丸真一氏に最適に精米してもらいました。モチモチ感や甘みは少ないけどパサパサというわけじゃなく、コシヒカリよりササニシキ派の自分にはおいしい。五百万石で握った鮨なんて、食べてみたいなあ。   <N> 玄米を棒で突っつく人力精米にチャレンジするが、1時間以上突いてもほぼ変化なし。精米器と銀シャリの偉大さを感じつつ、人力精米をあきらめて、精米した五百万石を実食。酒米は醸してなんぼ!食べても美味しくないでしょう。そう思い込んでいたが「あれっ意外と食べられる」というのが第一印象。香りはやはり食用米にはかなわないが、食感はそんなに悪くない。なんか懐かしいこの感じ。あっそうか、昔、学生食堂で食べた標準米の味と香りだ。     想定していたオチは、「炊いてもイマイチ。やっぱ酒米はおいしい酒を造るためにあるんだね」というものだったのに、意外においしくてビックリ!予想外の感動と発見があった酒米実食体験でした。   <参考文献・参考サイト> 新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者 米穀機構 米ネット 品種別作付動向 https://www.komenet.jp   <精米協力> 中丸屋商店 tel.0467-82-2213